2016年、日銀の黒田総裁がマイナス金利政策を発表しました。
マイナス金利という言葉から、マイナスの金利ということは想像がつきますが、具体的な内容について問われると、良く分からないという方も多いのではないでしょうか?
今後の経済情勢を理解するためにも、マイナス金利が何なのかということについてしっかりと理解しておきたところ。
そこで今回は、マイナス金利の概要について、過去の経緯も踏まえて分かりやすく説明します。
- 目次
- 1. マイナス金利を順を追って理解する
- 2. マイナス金利って何がマイナスなの?
- 3. マイナス金利なのに、銀行が日銀にお金を預けるのはなぜなのか?
- 4. バブル崩壊後の日銀の動き
- 4-1. 政策金利とは?
- 5. 日銀による量的緩和政策
- 6. そもそも国債とは?
- 7. 買いオペレーションによって起こったこと
- 7-1. 法定準備とは?
- 7-2. 超過準備とは?
- 8. 買いオペレーションを継続した結果
- 9. まとめ
- 10. 最後に
1. マイナス金利を順を追って理解する
マイナス金利とは何なのか、という点について順を追って理解していきましょう。
なお、今回の記事では細かい言葉の意味についても説明していきます。知っている部分については適宜読み飛ばしていただければと思います。
はじめに、マイナス金利を理解する大前提として、把握しておくべき当事者について整理しましょう。マイナス金利を理解するためには、3つの当事者がいるということを意識して下さい。
その3つとは、①日銀、②銀行、③企業です。
まずは、この3つの当事者をしっかりと頭の中に入れておきましょう。
2. マイナス金利とは、何がマイナスなのか?
まず、マイナス金利の何がマイナスなのかという点について説明します。
マイナス金利とは、銀行が日銀に預けているお金に対する金利がマイナスであることを意味します。
つまり、銀行と企業の間の金利の問題ではない。ということに注意する必要があります。
マイナス金利の状況では、銀行が日銀に対してお金を預けていると、預けたお金に対して利息を支払わないといけなくなってしまうのです。
しかし、そう考えると、銀行が日銀にお金を預ける理由がない(銀行に保管しておけば良い)と思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。
そこで、マイナス金利であるにも関わらず、銀行が日銀にお金を預ける理由について説明していきましょう。
3. マイナス金利なのに、銀行が日銀にお金を預けるのは何故なのか?
銀行が日銀に預けた時の金利がマイナスであるにも関わらず、なぜ銀行は日銀にお金を預けるのでしょうか?
この点を理解するためには、銀行の実情について把握する必要があります。
ここで、それぞれの銀行の支店において、どれぐらいの現金が保管されているかご存知でしょうか?
銀行の規模にもよりますが、銀行の支店に置かれている現金は、実は数百万円~数千万円しかありません。
そもそも、現金を置く場所がないですし、多額の現金を置いている場合、それなりのセキュリティ体制を敷く必要があり、銀行にとってコストとなってしまうのです。
つまり、銀行が預かっている現金は、どうにかして運用しなければいけないのです。そして、運用先の一つとして日銀にお金を預けるという選択肢があるのです。
しかし、この説明は若干短絡的であり、マイナス金利の影響についてさらに深く理解するためは、日銀の財政政策の経緯をしっかりと理解する必要があります。
そこで、過去の経緯を踏まえた上でマイナス金利について深く理解していきましょう。
4. バブル崩壊後の日銀の動き
日本は、バブルの崩壊後、多くの企業が後処理に苦しんでいました。銀行も不良債権が増加し、経営は悪化の一途をたどるばかりでした。
そこで、日銀は政策金利を引き下げ、銀行から企業への融資が活発になるように仕向けます。
実際、1990年8月に6%であった政策金利は、1998年9月には0.25%にまで低下しました。
(政策金利が何なのか?という点については、以下4.1を参考にして下さい。)
政策金利を引き下げることによって、銀行が企業に融資する貸付金の利率も減り、企業として資金調達の意欲が高まるのではないか。というのが狙いです。
しかし、現実には日銀が政策金利を下げても、企業への融資は活発になりませんでした。
景気の低迷が継続しており、新たな投資に資金を回すような状況ではなかったのです。
そこで、日銀は、2001年頃に量的緩和政策を取ります。量的緩和政策について、次の章から見ていきましょう。
4-1. 政策金利とは?
ここで、政策金利とは何なのか?という点について説明します。
政策金利とは、無担保コール翌日物とも呼ばれています。
これは、銀行だけが参加できるお金の貸し借りのマーケットにおける貸出金利のことを言います。
そして、日銀は政策金利を自ら決定することができるのです。
政策金利が低ければ、企業はお金を借りやすくなり、それが企業への貸付に回る。という考え方です。
5. 日銀による量的緩和政策
量的緩和政策とは、国内に出回っている通貨の量を増やすことを言います。
国内に出回る通貨の量が増えることにより、金融機関にある現金が企業への貸付にまわり、それが結果として景気の上昇に繋がるのではないか。という考え方です。
なぜなら、お金の出回る量が増えることによって、企業は設備投資などを積極的に行うことができるようになり、それが企業の収益向上につながり、従業員の賃金が増え、消費が上向くというという循環が期待できるからです。
そして、量的緩和政策の中の一つとして行われたのが、日銀による国債の市場買付です。
これは、買いオペとも呼ばれています。
日銀が銀行から国債を買うことにより、銀行に残るお金が増えます。
そうすると、銀行はお金を運用する必要があるので、企業に対して融資などを行います。
その結果、企業の設備投資などが進み、売上があがり、賃金も上昇、消費が上向いて、景気が良くなっていくという狙いです。
6. そもそも国債とは?
さて、ここで、そもそも国債とは何なのか?という点について説明します。
国債とは、国が発行している債券のことです。若干語弊はありますが、金額が固定されている株券という表現だとイメージが湧きやすいかと思います。
そして、株に配当があるように、債券にも利息がつきます。つまり、現金を預金しても、債券を保有しても、金利による収益を上げることができるのです。
そして、日銀は、銀行が保有している国債を買取るというオペレーションを行いました。
そうすることによって、銀行の行内にある現金の量が増え、その現金が起業への貸付に回ると考えたのです。
7. 買いオペレーションによって起こったこと
実際に、日銀が2001年に量的緩和政策を発表してから、国内の通貨量は継続的な伸びを見せます。この量的緩和は2006年まで続きました。
以下に市中に出回る通貨の量(マネタリーベース)の推移を示しますので、参考にして下さい。
通貨量(マネタリーベース)の推移
ここで、量的緩和政策である買いオペを進めることにより起こった弊害について説明していきます。
金融機関の立場から、買いオペによる影響について考えていきます。
金融機関として、日銀にお金を預ける場合と、国債を購入するという二つの運用方法があると仮定します。
国債はリスクゼロの運用方法ですので、安全に金利による収益を上げることができます。
一方、日銀にお金を預ける場合でも安全なことに変わりはありませんが、日銀への当座予期には金利が付きません。
そうすると、例え日銀が国債を買ったとしても、金融機関はその国債を買い戻してしまうのです。
何故なら、国債の方が高い収益を上げることができるからです。
日銀が国債を買い取ったとしても、銀行はまた国債を買い戻してしまいます。しかし、それでは銀行に現金を増やすという日銀の目的を達することができなくなってしまいます。
そこで、日銀は法定準備を超えた部分、すなわち超過準備に対して利息を支払うことにしたのです。
(法定準備と超過準備の説明は、以下6-1.と6-2.を参考にして下さい。)
なぜ超過準備の部分の金利を付けたのかというと、そうしなければ日銀の買いオペを継続できなかったからです。
(買いオペについては1-4.で説明します。)
7-1. 法定準備とは?
ここで、法定準備とは何なのかということについて説明していきます。
法定準備とは、日銀が金融機関に対して求めている預金の割合のことです。
銀行は消費者から預かった現金を貸し付けて利益を上げています。ここで、預かった全ての現金を貸し出しに回してしまうと、不測の事態に対応できなくなってしまいます。
この背景を踏まえ、日銀が金融機関に対し、最低限預金しておく現金の割合を決めたのです。
7-2. 超過準備とは?
超過準備とは、法定準備以上に日銀に預けられている現金のことを言います。
8. 買いオペレーションを継続した結果
日銀が超過準備に対して利息を支払うと決めてからも、景気を刺激するために日銀はずっと国債を買い続けていきました。
ここで、国債を買い続けることによってどうなっていくのかという点について考えていきましょう。
国債の価格の決まり方は複雑なのですが、シンプルに考えます。
先ほど、国債=株というイメージとお伝えしました。
株の場合、その株を買いたいという人が増えると、その株価は上がっていきます。しかし、配当金は基本的には変わりませんので、結果として株価が上がることによって、配当利回りは下がります。
国債の場合も同じです。日銀が国債を買い続けることによって、国債の価格が上昇していき、国債の利回りが低下していったのです。
(これは厳密な説明ではありません。イメージとして理解するための説明です。)
つまり、国債の利回りがどんどん低下していき、ゼロに近い数字になっていきました。
そうすると、当座預金(超過準備)に対して日銀が利息を付けていると、銀行はどんどん日銀にお金を預けてしまいます。
その結果、企業への資金が流れなくなってしまいます。そこで日銀は、当座預金に対してマイナスの金利を付することを決定したのです。
すなわち、銀行から見ると、日銀の当座預金に預けても、国債を購入してもあまり利息を得ることができない。
だから、企業に対して融資をどんどん進めていこう、ということを狙った政策です。
9. まとめ
ここまでの話をまとめましょう。
日本はずっとデフレが続いていました。それを打開するべく、日銀は数々の政策を取ってきました。
まずは政策金利を下げ、景気を刺激しようとしました。
しかし、それでも景気は上向かなかったので、次は量的緩和政策による買いオペレーションをして国債を購入しました。
更にその後、余剰準備に対して金利を付けました。
そして、その後も国債の購入を続けた結果、国債の利回りはどんどん低下していきました。
国債の利回りが下がると、当座預金へのお金の預け入れが増えてしまい、企業に資金が回らなくなってしまします。
その結果、最終的に、日銀は当座預金への金利をマイナスとしたのです。
政策金利の引き下げは一般的な景気刺激策と言われていますが、量的緩和、余剰準備に対する金利、マイナス金利は一般的な政策とは言えません。
つまり、マイナス金利を導入しても景気が上向かない場合、日銀はまた異なる政策をとる必要があるのです。
マイナス金利は、過去の流れを踏まえて決定されている政策ということを把握しておくと良いでしょう。
10. 最後に
マイナス金利とは何なのか?という点について、過去の経緯を踏まえながら説明させていただきました。
今回の記事が、これからの経済情勢を読み解く上での一助となれば幸いです。