• 民法改正が敷金と建物原状回復に与える影響 – 売主のミカタ

    民法改正が敷金と建物原状回復に与える影響

    敷金と原状回復

    民法の改正によって様々な条件が変わってくると言われていますが、これから部屋を探そうとする方はトラブルに繋がりやすい敷金や原状回復がどう変わるのかという点について気になる方が多いのではないでしょうか?

    そこで今回は、民法の改正が敷金と原状回復に与える影響と、賃貸借契約の締結において気を付けるべきことについてお伝えさせて頂きます。

    • 目次
    • 1. 敷金について
    •  1-1. 現行の民法における敷金の扱い
    •  1-2. 民法改正後の敷金の扱い
    • 2. 原状回復について
    •  2-1. 現行の民法における現状回復の扱い
    •  2-2. 民法改正後の現状回復の扱い
    • 3. 民法改正後、賃貸借契約締結時に注意するべき点
    •  3-1. 任意規定と強行規定
    • 4. 最後に

    1. 敷金について

    まずは、現行の民法と新民法における敷金の扱いについて説明させて頂きます。

    1-1. 現行の民法における敷金の扱い

    はじめに、現行の民法において敷金がどういった整理になっているのかという点について見ていきましょう。

    実は、現行の民法において敷金について明確に記載された条文はありません。つまり、敷金は賃貸業界において慣習的に定められたものであり、民法上の定義はないのです。

    しかし、敷金に関するトラブルが多発し、裁判にまでもつれ込むことも多々あったことから、敷金がどういった意味合いのものであるかという解釈を示した判例がありますので紹介させて頂きます。

    敷金の整理

    1. 賃貸借契約開始時に賃借人から賃貸人に預託される
    2. 賃貸人が賃借人に対して「賃貸借契約成立から明渡しまでに生じる損害」を担保する
    3. 損害(未払賃料等)があれば相殺の意思表示を待つことなく当然に充当される
    4. 賃貸借契約終了時に(控除後の金額が)返還される

    出典:三平聡史弁護士ブログ

    敷金の性質

    つまり、貸主が被った一切の損害を担保する目的で差し入れられるのが敷金です。

    1-2. 民法改正後の敷金の扱い

    次に、民法の改正によって敷金がどういった扱いになるのかという点について見ていきましょう。

    民法の改正に伴い、敷金の定義がはっきりと記載されることになりました。民法改正後の敷金の定義は以下の通りです。

    「敷金とは、いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」

    そして、その返還時期に関しても、

    「①賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、②賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」

    と明文化されました。つまり、今まで判例によって形成されていた共通認識が明文化されたに過ぎないというのが民法改正が敷金に与える影響なのです。

    敷金の定義

    一方、現時点では敷金の意味についての認識の食い違いはほとんどなく、敷金自体が賃貸借契約における争点になることはほとんどありません。

    そういった意味で、民法上「敷金」の定義が明文化されたとしても実質的な影響はほとんどないと言うことができるでしょう。

    2. 原状回復

    次に、原状回復に関する規定が現行の民法と新民法においてどう違うのかという点について見ていきましょう。

    2-1. 現行の民法における原状回復の扱い

    まずは現行の民法における原状回復の扱いについて見ていきましょう。

    実は、これも敷金と同じく現行の民法では原状回復に関する記載はありません。

    一方、現状回復費用でのトラブルが多いことを背景として、国土交通省が「原状回復に関するガイドライン」が平成10年に策定されました。

    原状回復の整理

    このガイドラインに法定拘束力はありません。

    2-2. 民法改正後の現状回復の扱い

    次に、民法改正後の現状回復の扱いについて見ていきましょう。

    民法改正後は原状回復の意味及びその範囲が明確に規定されることになりました。

    以下に当該条文をご紹介させて頂きます。

    賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損害(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によって生じたものであるときは、この限りではない。

    上記のポイントは、通常損耗の範囲が明確に規定されたことです。具体的には、経年変化分は原状回復の範囲外であることが明確化されました。

    原状回復の整理2

    原状回復の範囲については別途コラムで紹介させて頂ければと考えておりますが、クロスの摩耗や畳の劣化などは通常損耗の範囲になると考えられますので、これらを原状に回復させるために発生する費用に関し、借手は基本的に費用を支払う必要はありません。

    では、この原状回復費用の明文化が賃貸借契約においてどういった影響を持つのでしょうか?ここからその具体的な影響について説明させて頂きます。

    3. 民法改正後、賃貸借契約締結時に注意するべき点

    民法改正が賃貸借契約にどのような影響を与えるのかという点について見ていきましょう。

    結論からお伝えさせて頂くと、賃貸借契約締結時に注意するべきポイントは、「特約条項」または「原状回復」に関する条文の記載内容をしっかりと確認する。となります。

    もう少し正確な表現としては、原状回復に関し、民法に規定されている内容に基づいて契約がなされているか注意するべき。ということがポイントとなります。

    なぜなら、原状回復に関する条文は「任意規定」であって、「強行規定」ではないからです。

    では、任意規定と強行規定で具体的に何が違うのでしょうか?具体例と共に説明させて頂きます。

    3-1. 任意規定と強行規定

    今回の民法改正が賃貸借契約に及ぼす影響を深く理解していただくために必要な知識である「任意規定」と「強行規定」について説明させて頂きます。

    • 任意規定:民法の条文とは関係なく、当事者間で自由に決めることができる規定。
    • 強行規定:当該条文に反する(当該条文よりも不利になる)項目は全て無効になるというものです。

    と言ってもイメージしづらいと思いますので、ここからは具体的で考えていきましょう。

    民法上の条文で「売買契約の金額は1,000万円を超えてはいけない。これに反する特約は無効とする。」

    という条文があったとします。

    この条文があった場合、任意規定の場合はお互いの合意によっていかようにも契約内容を決めることができますが、強行規定の場合、当該条項に反する記載は全て無効とされます。

    任意規定と強行規定

    つまり、例え民法に原状回復の定義が記載されていたとしても、当事者間で合意すれば民法上の記載に関係なくルールを決めることができるのです。

    3-2. 賃貸借契約締結時に注意するべき点

    上述の通り、原状回復に関する条文は「任意規定」であり、当事者間にて条文に反する内容も自由に決めることができてしまうことから、「特約条項」、「原状回復」が賃貸借契約上どういった記載になっているかという点について確かめる必要があります。

    原状回復ガイドラインの内容を精査することがベストですが、忙しくて時間がない方も多いと思いますので、そういった方は以下のポイントを意識して頂ければ良いと思います。

    1. 原状回復の条文の欄に、「原状回復の範囲は国土交通省策定の原状回復ガイドラインに準拠する」という文言を入れてもらう
    2. 特約条項の欄に「通常損耗を含む原状回復費用は借主負担とする」といった借主に不利な条項が入っていないか注意する

    という2点を具体的に意識して頂ければほとんどのトラブルは回避することができるでしょう。

    4. 最後に

    民法が改正したとしても、賃貸借契約(敷金と原状回復に関する取り決め)は基本的には当事者間で自由に決めることができます。

    一方、現状回復ガイドラインという貸主と借主双方共に納得できる指標がありますので、当該ガイドラインの内容はしっかりと意識・確認し、不利な条件で契約を結ぶことがないようにしましょう。

    この記事を書いた人:大橋亮太

    三井物産株式会社で約7年働いた後、2015年に株式会社ムーブウィルを設立。両手仲介への違和感から買側の仲介に入ることを止め、売主側の味方だけをするサイト「売主の味方」を立ち上げる。

    ファイナンシャルプランナー・宅地建物取引士

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