不動産投資と割引率の関係(割引率の正体)

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割引率

収益還元法による不動産の評価において重要視される割引率。 この割引率をどのように設定するかということが、不動産投資においては非常に重要です。

なぜなら、収益還元法における物件評価額は、割引率によって大きく変わってくるからです。

一方、この割引率が何なのかという点について説明しているサイトはあまりないのではないかと思います。そこで、今回は割引率の正体についてお伝えさせていただこうと思います。

1. 割引率と不動産価格

まず、割引率を活用した不動産の評価方法について簡単に説明させて頂きます。

不動産の評価方法で割引率を活用するものとしては、収益還元法が挙げられます。

収益還元法とは不動産の価格を算出する3方式のうちの一つであり、不動産の収益性に着目して不動産の価格を計算したものです。

そして、収益還元法においては、不動産が生み出す収益をそれぞれの発生時期に応じて割引き、それらを合計して不動産の価格を算出します。といってもイメージが湧きづらいと思いますので、具体例で考えてみましょう。

1-1. 具体例1 割引率5%の場合

例えば、100万円を今後10年間にわたって生み出してくれ、10年後に市場で200万円で売却することができる不動産があったとします。

そして、この不動産の割引率が5%だったとします。

この場合の収益価格は以下の通りです。

割引率:5%の場合における収益価格

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (年目)
割引前 10 10 10 10 10 10 10 10 10 1,000 (万円)
割引後 100 95 91 86 82 78 75 71 68 129 (万円)

上記の例において割引後の数字を全て足すと、875万円となります。以下のイメージを参照いただければと思います。

割引率5%の場合

1-2. 具体例2 割引率10%の場合

次に、割引率10%の場合における収益価格です。

割引率:10%の場合における収益価格

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (年目)
割引前 10 10 10 10 10 10 10 10 10 1,000 (万円)
割引後 100 91 83 75 68 62 56 51 47 85 (万円)

上記割引後の数字を全て足すと、718万円となります。

割引率5%の場合

上記にて、割引率が5%の場合と10%の場合においては、収益価格に875 – 718 = 157万円の差が生じるのです。

割引率による収益価格の違い

収益価格を算出するにあたって割引率が重要な役割を担っていることがお分かりいただけるのではないかと思います。

2. 割引率とは?(不動産鑑定評価基準より)

割引率が不動産の価格査定に大きな影響を与えることを理解して頂いた上で、ここからは具体的に割引率が何なのかという点について考えていきましょう。

まずは不動産鑑定評価基準からの抜粋です。

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる割引率をもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである

これは現在市場に出てくる物件の割引率をもとに対象不動産の割引率を算出する方法です。

周辺の物件から割引率決定

この方法では割引率が何なのかという点について結論を得ることはできません。

なぜなら、類似する不動産の割引率がどういった根拠に基づいて算出されたものなのかが分からないからです。査定の現場においては良く活用される方法であり、説明性にも優れた方法ではあると思いますが、割引率の本質とは少し違うようです。

(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方

この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各割引率を各々の構成割合により加重平均して求めるものである

これは自己資金の割引率と銀行からの借り入れに関する割引率を加重平均することによって対象不動産の割引率を算出する方法です。

例えば、頭金20%、借入80%で不動産を購入するとします。そして、頭金に関する割引率が10%、借入に対する割引率が5%だとすると、割引率は6%となります。

自己資金と借入金からの割引率

これも上記(ア)と同じく、自己資金と借入金に対する割引率が既知のものとして扱われていますので、そういった点においては割引率を知るという意味においてあまり参考にはなりません。

(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。

これは不動産を金融資産と考え、他の金融資産との比較を行うことで割引率を求める方法です。

金融機関からの割引率

この方法においては、金融資産との比較を行うために金融資産の利回りの根拠についてしっかりと整理しなければいけません。

上記にて、不動産鑑定評価基準においては割引率の定義やその算出方法についても記載されているのですが、実際には割引率が何なのかという点について明確な答えがないというのが現状と考えることができます。

では、割引率とは何なのか考えてみましょう。

3. 割引率とは?(割引率の本質)

割引率は金利でもあり、IRRでもあります。このあたりの詳細を知りたい方は、IRRとは何なのか、具体例と共に理解するというコラムをご参照頂ければと思いますが、割引率が金利と言われるゆえんを簡単に説明させていただきます。

今100万円を銀行に預けて1年後に101万円返ってくる場合、金利は1%ですね。

逆に、銀行から一年後に101万円貰える権利を今行使するとなると、銀行の運用分である1%を差し引いた100万円が入金されます。

上記における1%の運用分が割引率です。つまり、金利は今から見た運用益であり、割引率は将来から考えた運用益ということができるのです。

3-1. 金利はどうやってきまる?

割引率を考える際には、金利から考えた方がイメージしやすいので、まずここで金利がどうやって決まるかという点について簡単に説明させていただきます。

あなたにお金を貸そうとしている金融機関(銀行A)を想定して考えてみましょう。この銀行は地方銀行である場合を想定します。地方銀行は日銀から直接お金を借りることができませんので、都市銀行等からお金を調達します。

その際、銀行Aは都市銀行からの借り入れに際し、金利が発生しています。以下にイメージを作成させていただきましたので参考にしていただければと思います。

金利の仕組み

日銀が1年間金利0.1%で貸し出しをしていると仮定すると、日銀から直接借りることができる都市銀行はこの0.1%の調達金利に自社の利益を反映させた上で銀行Aに対してお金を貸します。

次に、銀行Aはこれから不動産を購入しようとしている人に対し、属性や物件の評価に基づいて貸し出し金利を決定します。

その際、貸付先が行う事業によっても利率は変わってきます。リスクが高い事業に融資するのであれば、それなりのリターン(利率)を銀行が求めてくるという点も想像しやすいのではないかと思います。

銀行の貸出金利

3-2. 金利と割引率の関係

ここから金利と割引率の関係について更にイメージを固めていただくべく、違う具体例を紹介させていただきます。

1年後に貰える100万円を今貰うとしたらいくらで貰うかということを考えてみましょう。

この場合全くリスクがない人から貰うお金であれば低い割引率で考えることができますが、属性も低く、本当に帰ってくるかも分からない人に貸した場合は高い割引率を考えないといけません。

割引率の考え方

もう一つ違う例で考えてみましょう。ベンチャー企業に対して投資する場合と、大企業に対して投資する場合、期待する利回りは当然異なると思います。

期待する利回りが異なる背景は、それぞれの場合においてリスクが異なるからです。

ベンチャー企業に投資する場合は、期待する利回り(すなわち金利であり、割引率)は大きくなりますが、大企業に対する投資の場合、利回りは小さくなります。

割引率の考え方

つまり、割引率を考えるということは、「あなたに対してお金を貸した場合に、そのリスクがどれほど大きいかを定量的に評価したもの」なのです。

割引率と金利の関係

上記の例において、金利が高いということはリスクが高い=割引率が高いということを意味します。

この前提を踏まえた上で、不動産投資における割引率の考え方がなぜ難しいのかという点について考えていきましょう。

4. 割引率算出における不都合

上記3.において、割引率は「あなたに対してお金を貸した場合に、そのリスクがどれほど大きいかを定量的に評価したもの」と記載させていただきました。

この定義をふまえ、ここからは具体的に不動産投資において割引率を算出する場合における不都合について説明させていただきます。

4-1. 不動産は借入期間によってリスクが大きく変わる

割引率の計算において一番大きな不都合を生じさせる要因が、不動産投資とは切っても切れない関係である借入です。

不動産投資における最大のリスクは返済リスクです。なぜなら、不動産を現金で購入すれば、投資額全てが回収できなくなる可能性はあっても、キャッシュがマイナスになることは基本的にはあり得ないからです。

一方、不動産の購入において、銀行は法定耐用年数に基づいて融資年数を決定します。例えば木造の法定耐用年数は22年ですから、築10年の物件に対し金融機関は基本的に12年のローンしか組むことができません。

法定耐用年数と融資期間

フラット35(35年ローン)で新しい家を買う時代ですから、12年ローンで月々の返済を賄っていくのが非常に難しいということは簡単に難くないのではないかと思います。

一方、金融機関は不動産一つ一つを評価した上で借入期間との兼ね合いで金利を決定するようなことはしません手間がかかりすぎるからです。

つまり、不動産投資における最大のリスクである返済リスクを定量的に評価することは実施的に無理なのです。

4-2. 借入期間は政府方針や景気によって大きく変わる

更に、金融機関の方針や貸出方針は政策などによっても大きく変化します。

融資期間が長ければ利回りは下がり、融資期間が短ければ利回りは上がります。

リーマンショック後に銀行が融資のハードルを厳しくした結果、不動産の利回りは上がりました。

一方、今のアベノミクスによる経済政策、金融政策の結果、銀行の融資ハードルは下がり、結果として利回りは下がっています。

国の方針によって得られる収入が変わるということは、将来予想は基本的に難しい=将来のリスクを定量化する割引率の適用は適さない。

という結論が導き出されます。

4-3. 不動産市況の将来予測は人によって異なる

不動産の価格は日々変化しています。昨日1,000万円だった物件が次の日に1,100万円になることもあります。

また、不動産はマーケット商品ですから、不動産の価格の推移は理論で説明することができません。

投資家や需要者が今後不動産価格が上がると思えば不動産価格は上がり、下がると思えばその価格は下がるのです。

つまり、割引率は将来の収入を現在価値に割り戻す際に用いられる指標であるにも関わらず、将来の収入を予想することは非常に難しいのです。

この投資家心理に基づく部分に関しては、割引率において反映させるのではなく、実際の賃料収入や売却価格において反映させるという考え方もあると思いますが、いずれにせよ予想できないものに対応しても仕方がありません。

この心理をどうやって反映させるのかということは割引率の算定において非常に重要なのですが、人によって予想が異なる以上、画一的な指標として用いるのには無理があるのです。

4-4. 得意不得意を割引率に反映させることは困難である

不動産経営においては、管理会社との折衝や仲介会社との交渉など、その人の能力が賃貸経営に大きな影響を与えます。

管理会社との折衝が得意な方からすると、管理に対するリスクは小さいことから割引率の増加分は少ないことが想定され、管理会社との折衝を苦手とする方にとっては割引率を上げなければいけないでしょう。

他方、金融機関はあなたがどれぐらい賃貸経営能力を有しているかを明確に判断することはできません。既存の部屋の埋まり具合である程度判断することができるという考え方もありますが、不動産は立地などによっても空室率に大きな影響があります。

つまり、金融機関が個別で割引率=金利を設定することは不可能なのです。

5. 最後に

最後に割引率に対する私の個人的な見解をお伝えできればと思います。私の見解としては、割引率を机上で算出しようと時間をかけることに意味はない一方、投資における一つの指標として割引率を考慮することは考え得る戦略だと思います。

つまり、投資にあたって必要とされる割引率を設定し、NPVがゼロ以上であれば投資を実行するという考えは有効だと思います。

最終的に保有している物件を売って最後に残るキャッシュを踏まえた上での投資の効率を図るのであれば、それぞれの投資家が考える割引率を適用すればよいだけだと思います。

すなわち、これから不動産投資をする方にとって、割引率という数字についてはあまり考えないほうが良く、どちらかといえばIRRを考えた方が良いのではないかと思います。

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