• 土地や建物の登記って本当に必要?登記しないとどうなるのか? – 売主のミカタ

    土地や建物の登記って本当に必要?登記しないとどうなるのか?

    登記のイメージ

    不動産を購入する際には登記を行うことが一般的です。

    しかし、登記を行うには登録免許税という費用が発生してしまいます。

    多額の請求を見て、「本当に登記って必要なのかな?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

    結論としては登記は必要なのですが、なぜ登記が必要なのでしょうか。登記の意味と共にご紹介させて頂きます。

    1. 登記とは?

    まずは登記とは何かという点について簡単に説明させて頂きます。

    民法や不動産登記法において登記という言葉は定義されていません。そこで、Wikipediaから登記の定義を紹介させて頂きます。

    登記とは、法に定められた一定の事柄を帳簿や台帳に記載することをいう。

    出典:Wikipedia

    不動産登記における一定の事項とは、土地や建物の面積や権利の種類のことを示しています。

    つまり、不動産に関する情報を帳簿や台帳に記載することが「登記」するということです。

    1-1. 登記は義務なのか?

    登記は義務ではありません。任意です。

    一方、登記をするには登録免許税という費用がかかります。不動産に関しては、概ね固定資産税評価額の1%前後の税金が発生します。

    そうすると、何で登記をしなければいけないのか、登記をしないとどのようなデメリットがあるのかを知りたいところですよね。

    登記は任意であるということを認識して頂いた上で、登記を行うことによるメリットについてご紹介させて頂きます。

    2. 登記を行うことのメリット

    不動産の保有において、登記を行うことによる具体的なメリットは大きく2つあります。

    それぞれについて順番に紹介させて頂きます。

     2-1. 第三者に対抗できる

    まずは民法の条文を紹介させて頂きます。

    民法177条

    不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

    もう少し分かりやすく整理すると、「不動産の所有権は登記しなければ第三者に対抗することができない」。という意味になります。

    逆に考えると、登記を行うことによってはじめて第三者に対抗することができると考えることもできます。

    では、登記をしなければどうなってしまうのでしょうか?イメージを持って頂くため、実例と共に説明させて頂きます。

     2-1-1. 第三者に対抗とは?具体例と共に理解する

    Aさんが土地と建物を持っており、この土地と建物を誰かに売ろうとしています。

    不動産会社に仲介を依頼すると、ほどなくAさんの土地と建物の購入希望者として、BさんとCさんが現れました。

    Bさんの提示額は5,000万円、一方でCさんの提示額は4,000万円です。そこでAさんはBさんと契約を結び、1か月後に建物を引き渡すことにしました。

    しかし、建物の引き渡し前にCさんが6,000万円で買うと言い出したとします。Cさんの提示額に魅力を感じたAさんはこれ幸いと思い、Cさんとも契約を結んでしまいました。

    この場合、法律上どうなってしまうのでしょうか?

    2-1-2. 2重契約は有効なのか?

    上記の例ではAさんがBさん並びにCさんと契約を結んでいますが、家と土地は1つしかないのに2人と契約などできるのか?という疑問を持たれると思います。

    結論としては、AさんはBさん及びCさん両方と契約を結ぶことができます。その場合、BさんもCさんもAさんの建物の所有権を主張することができます。

    不動産の場合イメージが湧きづらいので、他の具体的な例で考えてみましょう。

    Dさんは1週間後にEさんに車を売る約束を行い(ただし、1年後に車をDさんに返す)、時を同じくして、1年後にその車をFさんに売る約束をしました。

    この2つの契約が有効に成立するのは感覚的にお分かり頂けると思います。Dさんは1年後にEさんから車を返してもらい、その車をFさんに売れば何も問題ないからです。

    しかし、1年後、EさんはDさんに車を返さなかったため、Fさんは車を手に入れることができませんでした。

    この時FさんはAさんに対し、「買う予定だった車が買えないから仕事ができない。損害賠償を払え」ということができます。

    同じものを何人に売ろうとも契約は有効ですが、現実問題としてそのモノは1つしかありませんから、モノを手に入れることが出来なかった人が損害賠償請求を行うという整理になるのです。

    上記の不動産の例において、AさんがBさんおよびCさんと契約を結ぶことは民法上有効であることをまず認識しましょう。

    2-1-3. 2重譲渡の場合、誰が所有権を主張できるのか

    次に、民法上177条における「所有権は登記しなければ第三者に対抗できない」という文言における所有権は上記の例においてBとCのどちらが主張することができるのかという点について整理しましょう。

    結論としては、Bさん及びCさんの双方が所有権を主張することができます。

    これも具体的な例で考えてみましょう。

    あなたが通販で本を注文し、クレジットカードで決済を行ったとします。クレジット決済を行った直後、あなたはお金は払っていますが実際の本は手元にきていません。

    2-1-4. 第三者とは誰なのか?

    最後に、177条に記載されている第三者について考えていきましょう。

    簡単な結論としては、第三者とは利害関係者のことをいいます。簡単な例を紹介させて頂きます。

    上記AさんBさんCさんの例において、全く関係ないZさんがAさんの家に行き、「この部屋から出ていきなさい」といったとしても、そこに住んでいる人は退去する必要はありません。Zさんは第三者ではないからでです。Aさんと全く関係のない人が権利を主張することはできない(第三者ではない)ということは理解頂けるのではないかと思います。

    この第三は誰なのかという点をもう少し正確に理解して頂くべく、民法上の整理に戻りましょう。民法において第三者は明確に定義されていませんが、過去の判例から明確な共通認識が存在しています。その共通認識とは、

    当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者

    というものです。これでは分かりづらいので、少しかみ砕いた表現とさせて頂くと、「当事者以外で登記がないことを主張するための正当な利益を有するもの」という意味になります。もっとかみ砕いて説明すると、「対象となる不動産の利害関係者」という意味になります。

    上記の例では、Bさん及びCさんはAさんと契約を結んでいるので利害関係者になります。一方、ZさんはAさんとは何ら関係がありませんので、利害関係者ではなく、第三者にもあたらないという整理になるのです。

    そして、BさんCさん共にAさんから不動産を購入していますから、BさんもCさんも所有権を主張することができます。

    2-1-5. 売買において、登記をしないと結局どうなるのか?

    177条の条文に再度立ち返ってみます。

    不動産の所有権は登記をしなければ第三者に対抗することができない。

    つまり、不動産の所有権は登記をしなければ利害関係者に対抗することができないのです。

    実際に2重譲渡のケースが発生することはまれですが、あなたが知らないところで勝手に他人が登記してしまえば、その人の要求に従ってあなたは退去しなければいけなくなってしまいます。

    2-2. 賃料請求ができる(賃貸の場合)

    次に、賃貸の場合にどういったメリットがあるのかという点について紹介させて頂きます。

    賃貸の場合における登記の効果について記載された民法上の条文はありませんが、一つ重要なポイントがありますので紹介させて頂きます。

    そのポイントは、登記をしなければ賃借人に対して所有権の移転を主張することができないというものです。すなわち、登記をしなければ家賃を貰う権利が与えられないのです。

    もう少しかみ砕いて説明させて頂きます。

    2-2-1. 賃料請求ができるとは?

    これも具体例で説明させて頂きます。

    Cさんが賃貸で部屋に住んでおり、毎月オーナーであるAさんに家賃を払っているとします。

    ある日、Bさんから連絡がありました。その内容は、「この家をAさんから買ったので、これからは私に家賃を支払って下さい。」というものです。

    この連絡に対し、Cさんは疑問を払拭するためにAさんに電話で売買の事実を確認しました。確認したところ、売買は実際に行われたようです。

    他方、登記簿を確認したところ、所有権移転登記はなされておらず、登記簿上の不動産の名義はAさんのままになっていました。

    この場合、あなたはAさんとBさん、どちらに対して家賃を払うべきなのでしょうか?

    Aさん自身が売買の事実を認めているということもあり、Bさんに払うべきではないかと思われる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、この場合、実はAさんに家賃を払うべきなのです。

    もう少し正しい表現としては、所有権が移転したとしても、登記されている名義の人間に家賃を払えば、その支払いは正式に家賃を払ったものとして認められるのです。

    この背景は、部屋を借りる人を保護するという民法上の思想があります。(昔は絶対的に部屋が足りず、部屋を借りる人が損を被っていたことから、賃借人を保護するという理念のもとに借地借家法が制定されているなど、現状の民法では借手が有利な建てつけになっているのです。)

    つまり、登記をしなければ、あなたは家賃をもらい損ねてしまうかもしれないのです。

    3. 結局登記はした方が良いのか?

    上記の例から一つの明確な結論が導かれます。登記は必要です。

    登記しなければ、第三者から不動産を横取りされてしまうかもしれませんし、さらに賃借人に対して所有権を主張することもできないからです。

    不動産を売却する時にも登記簿にあなたの名前がなければ銀行はあなたに所有権があるとみてくれないかもしれません。登録免許税という税金が発生してしまいますが、必要経費と割り切って登記は必ず行うようにしましょう。

    この記事を書いた人:大橋亮太

    三井物産株式会社で約7年働いた後、2015年に株式会社ムーブウィルを設立。両手仲介への違和感から買側の仲介に入ることを止め、売主側の味方だけをするサイト「売主の味方」を立ち上げる。

    ファイナンシャルプランナー・宅地建物取引士

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