家は一生で一番大きな買い物の一つですので、 持家にするか賃貸にするか非常に悩みますよね。
一般的には、賃貸派の意見としては、一つの家に住み続けるのではなく、 気軽に引っ越しができることがメリットだ。
持ち家派の意見としては、ローンの返済を終えれば土地と建物が自分のものになることがメリットだ。
と言われていますが、検討における本質はそこではありません。保有か賃貸かをどうやって決めるべきか、具体例と共に解説させて頂きます。
- 目次
- 1. 賃貸か持家かの検討において必要な考え方
- 1-1. 保有か賃貸か、一つの結論
- 2. モデルの抽出
- 2-1. マンション価格の抽出
- 2-2. 賃料の抽出
- 2-3. 検証にあたっての前提条件
- 3. 計算結果の検証
- 3-1. 検証1(金利1.5%、借入期間35年の場合のシミュレーション)
- 3-1-1. 売却後、手元に残る金額の推移
- 3-1-2. 検証に用いたエクセルファイル
- 3-2. 検証2(金利1.5%、借入期間20年の場合のシミュレーション)
- 3-2-1. 売却後、手元に残る金額の推移
- 3-2-2. 検証に用いたエクセルファイル
- 4. 賃貸か保有化の検討において考慮するべき事項
- 4-1. 頭金を払った場合は、どちらが得するかは分からない
- 4-2. 月々のローンの支払額と賃料の差異を踏まえる必要がある
- 4-3. 物件価格が今回の仮定通りに推移するとは限らない
- 5. 最後に
1. 賃貸か持家かの検討において必要な考え方
冒頭でご紹介させて頂いた通り、賃貸派は気軽な引っ越しをメリットと考え、保有派は資産価値がメリットと考える傾向にあります。
一方、この双方の視点では賃貸か持家かの議論において答えは出てきません。なぜなら、上記は同じ物事を違う視点から捉えているだけであり、同じ前提での比較になっていないからです。
具体例で説明させて頂きます。例えば、車を使うとき、レンタカーにするか購入するかという議論の中で、 常に新しい車に乗りたいと考える人は、(レンタカーが法外に高くない限り)車を買うという 決断はしません。
なぜなら、この場合におけるレンタカー派は経済合理性での判断ではなく、常に新しい車に乗りたい! という欲求に基づいて行動しているからです。
車を買った方が出費は抑えられるとしても、新しい車に乗れないという不満の方が大きい ということから、レンタカーにするという決断をしているのです。
この考えに基づくと、賃貸か保有かという議論において、賃貸派が保有派になることはありません。保有した方が経済合理性に勝るとしても、気軽に引っ越しができる環境を好むからです。
つまり、賃貸か、持家かという議論においては、賃貸派の観点からの議論に意味はありません。
考えなければいけないことは、保有派の観点を起点とし、同じ物件に住み続けることを仮定した場合に、持家にした方が得なのか、賃貸にした方が得なのか、ということを 議論することなのです。
1-1. 保有か賃貸か、一つの結論
そして、保有派の観点から考え始めると、まずはシンプルな結論が一つ導き出されます。それは、保有し続けるなら(売らないなら)、保有した方が経済合理性に勝るということです。
これもレンタカーの場合をイメージして考えてみましょう。
例えば、同じ車を10年使い続ける必要がある場合、レンタカーよりも購入した方が得ということは 感覚的にお分かり頂けると思います。
なぜなら、レンタカーの場合(賃貸の場合)は賃貸人の利益が含まれているから (保有の場合よりも割高だから)です。
正しくは、賃貸人はお金をどこかから借りて、そのお金で車を買い、 その車をあなたに貸しているのですから、賃貸人は銀行からの借り入れ金利や、 手間賃を含めないと割に合わないのです。
そして、家の場合も同じです。不動産投資家は、銀行からお金を借り、そのお金で物件を買い、その物件をあなたに貸すことで利益を得ているのですから、賃料には賃貸人の利益が含まれており、保有した場合と比べて割高になります。
しかし、保有した場合は絶対に得とは言いきれません。なぜなら、物件を購入するためには高額な諸費用を払う必要があり、 この諸費用を回収するまでは物件を保有しておかなければ損をしてしまう可能性があるからです。
では、何年間保有すれば得するのかが気になるところですよね。 そこで、今回は具体的な数字と共に、何年間保有すると、持家派が有利になるのか という点について詳しく説明させて頂こうと思います。
2. モデルの抽出
実際に何年保有すると特になるのかという点について具体的な例と共に検証を進めていきましょう。
まずは、モデルとなる物件の抽出です。対象とする物件の価格と賃料をある仮定に基づいて決定しましょう。
2-1. マンション価格の抽出
購入する物件に関しては、東京23区内、都心に電車一本で到着する ファミリー向けマンションを前提としました。
この条件に合う4物件を抽出、その平均値を購入単価とします。
最寄駅 | 徒歩 (分) | 面積 (m2) | 価格 (万円) | 単価 (万円/m2) |
茅場町 | 5 | 59 | 6,618 | 112 |
三越前 | 5 | 41 | 5,150 | 126 |
東京 | 11 | 68 | 6,860 | 101 |
勝どき | 1 | 51 | 5,678 | 111 |
平均 | 113 |
2-2. 賃料の抽出
同様に新築物件(築1年以内)の賃貸物件を4つ抽出しました。
最寄駅 | 徒歩 (分) | 面積 (m2) | 賃料 (万円) | 単価 (万円/m2) |
月島 | 1 | 55 | 25.3 | 0.46 |
勝どき | 6 | 41 | 17.5 | 0.43 |
三越前 | 6 | 48 | 17.9 | 0.37 |
人形町 | 5 | 42 | 16.6 | 0.40 |
平均 | 0.41 |
上記から、新築物件の価格を1m2あたり113万円、 新築物件の賃料を1m2あたり0.41万円としました。
2-3. 検証にあたっての前提条件
この条件で、持家派が有利になる保有年数を考えていきますが、 算出にあたり、以下の仮定を置きます。
- 50m2の新築分譲マンションを購入
- 物件価格は20年目までは毎年2%減、その後は横ばい
これは三井住友トラスト不動産のデータに基づいています。 - 賃料は、毎年1%ずつ下落
これは三井住友トラスト基礎研究所のデータに基づいています。 - 融資は、フルローン(諸経費込み)、フラット35にて融資を組む。 金利は1.5%、期間は35年と仮定。
- その他費用として、物件購入費用(司法書士手数料、不動産取得税、 登録免許税、銀行への手数料など)を物件価格の7%として計上。
- 保有後に発生する費用として、管理費、修繕積立金、火災保険で 毎月4万円の出費が発生。
- 売却時に発生する費用として、不動産会社への仲介手数料として 物件価格の3%を計上。
3. 計算結果の検証
上記2.の前提で計算した結果をもとに、保有と賃貸のどちらが得かという点について考えていきましょう。
3-1. 検証1(金利1.5%、借入期間35年の場合のシミュレーション)
まずは、フラット35での借り入れを想定し、金利1.5%、借入期間35年でシミュレーションをしてみましょう。
3-1-1. 売却後、手元に残る金額の推移
売却後、手元に残る現金の推移を示したのが以下のグラフです。オレンジの線がゼロを超える年=保有した方が特になるタイミングとなります。
金利1.5%、借入期間35年の場合はおおむね9~10年目に売却すると、保有派が得になるという結論が導かれました。
上記のような結論になる理由を簡単に図にしてみましたので、以下のイメージを参照して頂ければと思います。
上の図において、1年目(購入時)は物件価格(時価)に登録免許税等の費用が追加で発生することから、時価よりも借金の方が高くなっていますが、年が経つにつれて借金の減るスピードが時価の減少よりも低くなるため、保有派の方が得になるのです。
時価の減少速度が緩やかなのは統計に基づく情報ですが、もし仮に時価の減少速度の方が残債の返済速度よりも早かったとしても、最終的には保有派が有利になります。
なぜなら、借金を返済し終えた後も土地は残るからです。つまり、保有し続けるという観点では保有派の方が最終的に有利になるのです。
また、上の図1において、濃いオレンジと薄いオレンジの違いは、家賃とローンの差額を反映させたものです。下のグラフをご覧ください。
上の図の黄色が賃貸した場合の賃料、グレーがローンの返済額を示しています。賃貸の場合、上記前提の通り、毎年賃料が下がる前提にしているため、賃料が下がっていきます。
この例の場合、ローンを組んだ方が1年あたり40万円の余剰資金が生まれるという計算になりますので、比較においてはこの数字を反映させる必要があります。
そして、余剰資金を銀行に預金するのではなく、事業投資に使い、毎年5%の運用益が得られると考えると、運用益を加味することによって保有派が得になる年度が9年目と、1年早まりました。
3-1-2. 検証に用いたエクセルファイル
この検証において作成したエクセルファイルの図を以下に載せさせて頂きます。図の下でダウンロードを行うこともできますので、借入条件を変更の上、具体的な検証を行う際に使用していただければと思います。
3-2. 検証2(金利1.5%、借入期間20年の場合のシミュレーション)
次に、返済を20年と短くした場合を考えてみましょう。
3-2-1. 売却後、手元に残る金額の推移
上記の条件で計計算すると、グラフは下記となります。融資期間35年の場合と比べ、保有派が特になる年度が早くなることが分かります。
一方、20年返済にした場合の月々の支払額は以下の通りです。返済期間が短いことから、賃貸の場合と比べてローンの返済額が極めて大きいという結果になりました。
この前提では早いタイミングで保有派が有利になりますが、賃貸した場合と比べた月々の支払額に大きな違いがありますので、実際の借り入れ条件を検討する場合はこの点も踏まえて考えなければいけません。
3-2-2. 検証に用いたエクセルファイル
このパターンにおける検証の元データを以下に記載させて頂きます。ファイル自体は3-1-2.に記載させて頂いたものと同じですので、違う借入条件で検証したい方は3-1-2.のリンク先をご参照いただければと思います。
4. 賃貸か保有かの検討において考慮するべき事項
上記2つの例で、どれぐらいの期間保有すれば保有派が得になるのか ということについて何となくイメージを掴むことができたでしょうか?
ここで、保有と賃貸の比較をする上で注意するべき点を整理させていただきましたので、以下ご参照頂ければと思います。
4-1. 頭金を払った場合は、どちらが得するかは分からない
上記の仮定は、投資の効率性の観点から双方を比較したものですので、たとえば頭金として500万円を支払った場合を考えると、賃貸の場合はその500万円を運用することができるので、厳密にはこの額を踏まえて比較する必要があります。
たとえば、頭金で払うはずだった500万円で株を買い、毎年3%の配当を得るといった選択肢が生まれますので、このような運用をした場合でも保有派が得になるのか、といった検討を行う必要があります。
4-2. 月々のローンの支払額と賃料の差異を踏まえる必要がある
これは上記1と若干重なる内容になるのですが、35年ローンを組んだ場合は、 基本的に同じような物件を賃貸した場合と比べて毎月の支払額が低くなります。
一方で、期間の経過に伴い、ローンの返済額よりも賃料のほうが低くなります (ローンの支払額は変わらないですが、賃料は建物の劣化に応じて安くなっていくため)。
将来の賃料は予想できないですので、将来賃料の大幅な下落が起こった場合、賃貸派の方が得になるということも起こりかねません。
4-3. 物件価格が今回の仮定通りに推移するとは限らない
ここが一番のポイントなのですが、物件の価格は変動します。今後物件が余り、価格が下がる可能性も有り得ます。
家を買うということは、この物件の時価変動のリスクを負っているということを忘れてはいけません。
長く住むなら買った方が得という結論に至る前に、今後の市況変動も頭に入れながら行動するようにしましょう。1年後に物件価格が5%下がると想定できるのであれば、1年後に購入した方が得です。
5. 最後に
今回の例では数字が多いため、少し分かりづらかったかもしれませんが、長期的な観点で踏まえると基本的に保有した方が特になるという点を頭の片隅においていただければ幸いです。
基本的には保有の方が得するという認識は重要ですが、不動産はマーケット商品ですので、今後の市況をある程度予想しながら購入の検討を進めていくようにしましょう。