• 物権と債権の違いを具体例と共に2分で理解し、地上権を学ぶ – 売主のミカタ

    物権と債権の違いを具体例と共に2分で理解し、地上権を学ぶ

    不動産の購入にあたっては、所有権、借地権、抵当権といった民法上の法律用語が多数でてきますが、これらの権利をしっかりと理解するためには、まず物権と債権の違いをしっかりと理解しなければいけません。

    なぜなら、民法の大きな分類である財産法と家族法の内、財産法は「総則」、「物権」、「債権」の3種類に分けられ、物権と債権は民法を理解する上での大分類として整理されるからです。

    所有権、借地権、抵当権も「物権」、「債権」のいずれかに分類されます(借地権は例外的に「物権」としての地上権と「債権」としての賃借権があります)。 つまり、不動産に関する権利は「物権」と「債権」に分類して考えることが理解への近道なのです。

    1. 物権と債権の違いを理解するのが難しい理由

    まずは物権と債権がなぜ理解しにくいのかという点について簡単に説明させていただきます。

    インターネットで「物権」と「債権」を検索すると以下のような説明がなされています。

    物権:モノを直接支配する権利

    債権:人に対して請求することが出来る権利

    これだけで物権と債権の違いを理解できる人は天才です。

    なぜなら、上記の説明は日常の生活でイメージできるレベル(頭で理解できる具体性)を欠いている非常に抽象的な説明であり、それが何を意味するのかという解説がないからです。

    抽象的な項目を具体的な理解につなげるにはとにかく具体例が一番です。 そこで、ここから物権と債権の具体例を紹介させていただきますので、その違いを把握しながら双方の違いを理解していきましょう。

    2. 物権とは何なのか?

    まずは物権から説明させていただきます。

    物権の代表格は所有権ですので、今回は所有権を例として説明させて頂きます。

    あなたはコンビニで消しゴムを買いました。

    この時、あなたは100円をコンビニに払うことによってその消しゴムの「所有権」を手に入れることが出来ます。

    (不動産などの高価な商品の場合は、どのタイミングで所有権が移転するのかという点に関し、契約書に明記したりするのですが、全ての商品で契約書を作るのは手間に見合いませんので、民法では、意思の合致(「100円で消しゴム下さい」、という意思表示と、「分かりました」という承諾)があれば、所有権は移転します。)

    所有権移転

    口頭の約束でも物権である所有権は移転しますが、所有権があると具体的に何が良いのでしょうか?少し突っ込んで考えてみましょう。

    2-1. 物権(所有権)があると何が良いのか?

    あなたが持っている消しゴムがある日誰かに盗まれてしまいました。

    数日後、友人があなたの消しゴムを使っているのを発見します。

    その際、あなたはその友達に対し、「その消しゴムを返せ!」ということができますね。

    では、なぜ「返せ!」ということが出来るのでしょうか?なぜなら、あなたに所有権が与えられているからです。

    では、なぜ所有権が与えられていると、「返せ!」ということが出来るのでしょうか? それは、所有権にはそのモノを独占的に使用することが出来る権利が与えられているからです。

    友達がその消しゴムを持っていたら、あなたは独占的にその消しゴムを使うことができません。だからこそ、「(所有権に基づく独占的に使用する権利が阻害されているから)その消しゴムを返せ!」ということが出来るのです。

    物権の効力

    所有権という権利、すなわち物権は非常に強い権利なのです。

    また、あなたが所有している土地の上に車を置いた人がいれば、「その車をどかせ!」ということが出来ますし、土地の上に買ってに家を建てられたら「更地にしろ!」ということができます。

    所有権を有することによって、円満な支配状態を維持することができるのです。例えば、あなたは以下の土地の所有権を持っていたとします。

    土地の所有権

    ここであなたの土地に勝手に立ち入った人に対し、あなたは「どきなさい!」ということができるのです。

    以下の図においては、あなたの所有権を有する土地に立ち入った人は、所有権者の排除請求にしたがってどかなければいけません。

    排除請求

    ここでは個人対個人の契約関係は関係してきません。あなたが支配する状態を維持できる権利こそが、所有権(物権)という権利であり、邪魔者は誰であっても排除することができる権利なのです。

    3. 債権とは何なのか?

    さあ、何となく物権のイメージを掴んで頂いた上で、次に債権について勉強していきましょう。

    これも具体例で考えていきましょう。 あなたは消しゴムが欲しいのですが、お金がないのでレンタルで消しゴムを借りることにしました。

    そして文房具屋に行き、月々10円で消しゴムを使う権利を貰ったとします。 この場合、消しゴムの所有権は文房具屋が持ったままです。

    つまり、消しゴムの所有権は文房具屋が持っているのですが、月々10円を払ってくれる限りにおいては、消しゴムを自由に使って良いよ、という契約をあなたとその文房具屋の間で結んだのです。

    債権のイメージ

    この場合、あなたはその文房具屋に対し、消しゴムを自由に使うことができるという債権を有すると共に、文房具屋に対して月々10円を支払うという債務が発生します。

    一方で、文房具屋はあなたに消しゴムを自由に使わせる債務を負うと共に、あなたから毎月10円を貰うという債権を有するのです。

    3-1. 債務の履行ができなかったらどうなるのか?

    数か月後、あなたは貯金が尽きてしまい、文房具屋に10円を払うことが出来なくなってしまいました。

    そうすると、あなたは債務不履行となるため、基本的に文房具屋はあなたとの契約を解除する権利が与えられます。 実際に契約が解除されるとどうなるか考えてみましょう。

    あなたは消しゴムを持っていますが、その消しゴムの所有権を有しているのはその文房具屋であり、契約が解除された以上、消しゴムを使う権利は何もありません。

    文房具屋もあなたに消しゴムを使わせる義務はもうありませんから、文房具屋は所有権に基づき、その消しゴムを返しなさい!ということができるのです。

    債権と物権

    ここまでくると、 物権:モノを直接支配する権利 債権:人に対して請求することが出来る権利 という意味が少しつかめてきたのではないかと思います。

    物権は支配する”状態”を維持することができる権利ですが、債権は特定の人に対してのみ”請求”する権利であり、両者はその権利の性質が若干異なるのです。(だからこそ、物権と債権の整理は難しいのです。)

    ここから更に理解を深めて貰うべく、物権と債権を絡めた形での具体例を紹介させて頂きます。

    4. 物権と債権を絡めた具体例

    上記の消しゴムの例で考えてみます。 あなたは引き続き月々10円を払うという条件で文房具屋から消しゴムを借りています。

    そこで、あなたがその消しゴムを友人(“友人A”としましょう)に対して使わせたらどうなるでしょうか?

    まず、文房具屋から見ると、他でもない”あなた”に対して消しゴムを使わせるからこそ10円で良いといったのであり、例えば友人Aが猛烈に消しゴムを使う人、相当乱暴に消しゴムを使う人だったら、文房具屋は予想外の損失を被ってしまいます。 債権と債務は表裏一体の関係ですから、当事者間でのみ有効なのです。

    違う例としては、あなたが大切にしている車を友人に貸した際、その友人が勝手に香水の匂いがきつい他の人に車を貸したら嫌ですよね。

    当事者間の契約には基本的に第三者が入ってきてはいけないのです。

    物権と債権

    消しゴムの例に戻りましょう。例えあなたが消しゴムを友人Aに貸したとしても、文房具屋は消しゴムの所有権を有していますので、友人Aに対し、「(所有権に基づく独占的に使用する権利が阻害されているから)その消しゴムを返しなさい!」と言うことができます。

    債権と物権

    文房具屋と友人Aの間には何ら債権・債務関係はありませんので、友人Aはあなたから借りたという言い訳をしても意味がなく、その消しゴムを文房具屋に返さないといけません。

    そう考えると、債権とは人に対して(契約をしたその相手にだけ)請求することが出来る権利であり、物権(所有権など)は誰にでも主張することができる権利という意味が少し明確になるのではないかと思います。

    5. 借地権(地上権と賃借権)を理解する

    上記の通り、物権と債権の違いが理解できれば、地上権と賃借権の理解は簡単です。

    地上権は物権ですから、その土地を自由に使用収益する権利が与えられます。 実際には土地の所有者は別にいるのですが、地上権を有している人は所有権と同様の大変強い権利を有していますので、実態としては地上権が設定された場合(地主が誰かに地上権を設定する権利を与えてしまった場合は)、土地の売買が行われたようなイメージと考えて頂ければ良いと思います。

    この場合、土地を借りている人は地代(土地のレンタル料金)を地主に払う必要がありますが、土地を自由に使うことが出来ますので、自らの意思で売却したり、他の人にその土地を貸したりすることができます。

    一方、賃借権は債権ですから、上記の例でいう消しゴムを使う権利を与えて貰ったというイメージです。 例えば、地代が10,000円であった場合、地主は”あなた”に土地を貸すから10,000円で使う権利を与えたのであり、あなたはその土地を自由に処分することも、誰かに勝手に貸すこともできません。

    地主がしっかりとグリップを握っているというイメージです。 

    6. 最後に

    物権と債権の違いを具体例で紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

    このコラムが物権と債権の理解の一助になれば幸いです。

    この記事を書いた人:大橋亮太

    三井物産株式会社で約7年働いた後、2015年に株式会社ムーブウィルを設立。両手仲介への違和感から買側の仲介に入ることを止め、売主側の味方だけをするサイト「売主の味方」を立ち上げる。

    ファイナンシャルプランナー・宅地建物取引士

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