不動産を売却することによって譲渡所得が発生します。この譲渡所得は不動産保有時の所得とは別の所得として扱われますので、売却額が高くなると税金が非常に高くなることもあり得ます。
一方、とりわけ居住用の住宅に関しては様々な軽減措置が整備されており、これらの制度を理解することによって支払うべき税金を大幅に減らすことも可能です。
そして、軽減措置は選択して適用しなければいけない項目もあり、どれを適用すれば一番お得になるのか、中々整理が難しい方もいらっしゃるのではないかと思います。
そこで今回は、不動産の売却によって発生する譲渡所得の全体感を把握すると同時に、支払う税金を下げる軽減措置の具体的な適用方法についてお伝えさせて頂きます。
- 目次
- 1.譲渡所得の構成要素、税率を整理する
- 1-1 譲渡所得の概要とその税率
- 1-2 購入・売却に含めることができる費用 ①仲介手数料
- 1-3 購入・売却に含めることができる費用 ②減価償却費
- 2.譲渡所得に関する優遇措置のまとめ
- 2-1 居住用住宅を譲渡した場合の3,000万円特別控除
- 2-2 住宅ローン控除
- 2-3 長期譲渡の特例
- 3.税金を減らすために取り得る選択肢3つ
- 3-1 保有期間が5年以下の場合
- 3-2 保有期間が5年超、10年以下の場合
- 3-3 保有期間が10年超の場合
- 4 まとめ
1.譲渡所得の構成要素、税率を整理する
まずは不動産売却によって発生した所得である譲渡所得の内容について理解しましょう。
1-1 譲渡所得の概要とその税率
譲渡所得は不動産の売却価格が購入価格よりも高い場合に発生します。そして、その税率は以下の通りです。
不動産の譲渡所得に関する税率
保有期間 | 税率 |
5年以下 | 39% |
5年超 | 20% |
簡易計算
1 購入価格1,000万円
2 売却価格2,500万円の場合
2,500 – 1,000 = 1,500万円が譲渡所得となり、この1,500万円に対して39%または20%の税金が発生します。
保有期間に関する注意点
上記の表には保有期間が5年以下と5年超の場合に分けられていますが、この5年の計算は、所有した年の1月1日時点を基準とすることに注意しなければいけません。
これは図で見た方が分かりやすいので、以下の図をご覧ください。
上の例(上部)の場合、5年8か月保有しているのですが、税法上では4年11か月しか保有していないとみなされますので、短期譲渡に対する税率39%が適用されてしまうのです。
1.2 購入・売却価格に含めることができる費用 ①仲介手数料等
上述の売却価格・購入価格には一定の要件のもと、購入及び売却時に発生した費用を含めることができます。
そして、不動産の購入・売却に含めることができる費用は、具体的には仲介手数料、登録免許税などです。
他にも費用はありますが、通常の売却において発生することはまれですので、本コラムでは割愛させて頂きます。
注意点
この費用は保有期間中に費用とした場合、すなわち不動産所得の計算において既に費用計上している場合は購入・売却費用に含めてはいけません。費用の2重計上となってしまうからです。
つまり、不動産に関する所得は不動産所得と譲渡所得の2種類があるのです。この2つの所得はそれぞれ異なる税率で税額が計算されます。
そして、異なる所得とは言ってもそれぞれの計算内容が重複することはありません。
一方、不動産の購入・売却において発生する費用に関しては、賃貸経営と売買のどちらの費用とみなしても良いもの(仲介手数料・登録免許税等)があるため、不動産所得と譲渡所得のどちらで計上するのか決めなければいけないのです。
なぜどちらにしか含めることができないのかというと、税法上そう決められているからです。不動産からの儲けが2重に計上されることもありませんので、この点はフェアな考え方と認識して頂ければと思います。
1.3 購入・売却価格に含めることができる費用 ②減価償却費
保有期間中に減価償却費を計上していた場合、この減価償却費の合計額は不動産の購入価格から差し引かなければいけません。
なぜなら、不動産所得の計算において費用として認識しているにも関わらず、建物の購入価格が下がらない場合、整合性が取れないからです。
具体例で考えましょう。
1億円で物件を購入し、5年間で1億円の家賃収入と1億円の減価償却費を計上し、その物件を1億円で売却したとします。この場合、不動産所得は1億円(家賃収入) – 1億円(減価償却費) = 0円となり、税金は発生しません。
さらに、不動産を売却した場合も1億円(購入価格) – 1億円(売却価格) = 0円となり、税金は発生しません。
一歩上で、あなたの手元には1億円の家賃収入が残っています。それは何だかおかしいですよね。
この場合、減価償却費の1億円は購入価格から差し引く必要があります。そうすることによって、不動産所得0円、譲渡所得1億円(0円 – 1億円)となり、儲け1億円に対して適正に課税がなされることになるのです。
2. 譲渡所得に関する優遇措置のまとめ
ここから優遇措置の具体的な内容について説明させて頂きます。 まず結論として、投資用不動産の場合、適用できる優遇措置はありません。
厳密には収用の場合(国の命令で建物を撤去させられる場合)などは優遇措置があるのですが、これはあなた自身が選択、コントロールできるものではありませんので今回は割愛します。
投資用不動産をお持ちの方は、自分の意思に反して不動産を売却させられた場合には何か優遇措置がある、というイメージを持っておけば良いと思います。
まずは優遇税制の種類について勉強しましょう。
*尚、今回紹介させて頂く優遇税制に加え、特定居住用財産の買い替えの課税の繰り延べという制度もあるのですが、これは支払う税金を詳細に繰り延べるだけであること、そして上述の制度との併用が基本的にできず、節税効果が薄いため、本コラムでは記載を割愛させて頂きます。
2-1 居住用住宅を譲渡した場合の3,000万円特別控除
居住用の3,000万円控除
概要 | 譲渡所得から3,000万円控除することが可能 |
要件 | 譲渡時、その家に居住していること |
簡易計算
1 購入価格が5,000万円
2 売却価格が6,000万円の場合、譲渡所得1,000万円は3,000万円控除により0円となることから、
(6,000 – 5,000) x 0.39 = 390 万円がお得(税率39%の場合)、
(6,000 – 5,000) x 0.20 = 200 万円がお得(税率20%の場合)となる。
詳細要件
1 居住用の家、もしくは3年前まで住んでいた家を売ること
2 過去2年内にこの制度を利用していないこと
3 親子など親族間での売買ではないこと
市況の急激な高騰が期待できない今のご時世では、居住用の家の売却にあたって所得が生じたとしてもその額が3,000万円を超えることはほとんどないため、この3,000万円控除を適用すれば基本的に譲渡所得は0円になると思います。
一方で、本制度を利用すると後述の住宅ローン控除を適用することができなくなってしまうため、適用にあたっては注意する必要があります。
また、居住用の家といっても、この特例を受けるためだけに入居した場合や娯楽のために保有する家屋などの場合には適用されませんので注意が必要です。
すなわち、表面的な居住ではなく、実質的な居住が要件になるということです。
では誰がこの「居住」についての判定を行うのかという点になりますが、これは税務署の判断によります。税務署が黒と言えば黒です。一方、普通に居住しているのであればそれほど身構える必要はありません。
ちなみに、譲渡所得がマイナスになったからといって税金が還ってくるわけではありませんで注意しましょう。譲渡所得がマイナスになった場合は一律0円とみなされます。
2-2 住宅ローン控除
概要 | ローン残高の1%分が返ってくる (最大50 or 40万円、10年間) |
要件 | 住宅ローンを組成すること |
簡易計算
1 10年間の住宅ローン残高の平均が3,000万円の場合
3,000 x 1% x 10年 = 300万円 がお得になる。
詳細要件
1 新築または建築後使用されたことがない住宅を取得すること
2 新築または取得日の6か月以内に住み始め、その年の12月31まで住み続けること
3 控除を受ける年の所得が3,000万円以下であること
4 住宅の床面積が50m2以上、床面積の半分以上を自己居住に供すること
5 借入期間が10年以上であること
この制度は売却に伴う制度ではありませんが、売却時に適用される制度と選択的に適用する必要があるため、紹介させて頂きました。
控除額に関しては、省エネや耐震性に優れている住宅(証明書が必要)の場合は50万円、それ以外の場合は40万円が各年の控除額の限度となります。
また、この制度で控除される額は、所得からの控除ではなく、税額からの控除にて、払った税額から上記の控除額がそのまま戻ってきますので、大変有利な制度です。
住宅の売却に伴って新しい住宅を購入する場合は、まずこの住宅ローン控除の検討をされることをお勧めします。
2-3 長期譲渡の特例
概要 | 譲渡所得のうち6,000万円まで税率が14%になる |
要件 | 10年以上居住していた家を売却すること |
簡易計算
1 購入価格が5,000万円、
2 売却価格が15,000万円の場合
15,000 – 5,000 = 10,000万円が譲渡所得にて
6,000 x (20% – 14%) = 360万円 がお得になる。
詳細要件
1 売った年の1月1日時点における所有期間が10年を超えていること
2 過去2年間この特例を受けていないこと
3 親子など親族間での売買ではないこと
この制度は譲渡所得が3,000万円を超えた場合において有効となります。なぜなら、3,000万円特別控除制度との併用が可能だからです。
一方、一般的な家庭において譲渡所得が3,000万円を超えることは非常にまれであること、そしてこの制度を適用すると住宅ローン控除の制度を適用することが出来なくなってしまいますので、あまり実用的な制度とは言えません。
3. 税金を減らすために取り得る選択肢3つ
ここからが本題です。今回は期間を3つに分けて税金を減らすために取り得る選択肢についてご紹介させて頂きます。
なぜ3つかというと、3つに分けれることによって現実的に取り得る選択肢を全て網羅することができるからです。
3-1 保有期間が5年以下の場合
①税率は39%
②居住用の3,000万円控除 or 住宅ローン控除を選択適用
保有期間が5年以下の場合、譲渡所得に対する税金が39%発生するので、3,000万円控除を選択するか住宅ローン控除を選択するか、しっかりと計算した上で選択する必要があります。
イメージとしては、譲渡所得が800万円ほど出るようであればしっかりとそれぞれの制度における控除額を計算した方が良いと思います。800万円以下の場合は基本的には住宅ローン控除を選択した方が得になるでしょう。
3-2 保有期間が5年超、10年以下の場合
①税率は20%
②居住用の3,000万円控除 or 住宅ローン控除を選択適用
この場合に取り得る選択肢は基本的には1.の場合と同じです。
売却に伴って大きな譲渡所得が発生する場合は3,000万円控除を、譲渡所得がほとんど発生しない場合は住宅ローン控除を適用するようにしましょう。
イメージとしては、譲渡所得が1,500万円を超えるようであればしっかりとそれぞれの制度における控除額を計算した方が良いと思います。1,500万円以下の場合は基本的には住宅ローン控除を選択した方が特になるでしょう。
3-3 保有期間が10年超の場合
①税率は20%
②長期譲渡の特例 and 3,000万円控除 or 住宅ローン控除を選択適用
この場合、新たな減税措置として6,000万円までの譲渡所得にかかる税率を14%にすることができます。 この制度は3,000万円控除または住宅ローン控除と併用することができますので、この制度を活用して譲渡所得を減らすようにしましょう。
一方で、この制度を活用すると住宅ローン控除を適用することが出来なくなってしまいますので注意が必要です。
まとめ
市況高騰があまり期待できない状況においては3,000万円控除を適用するより住宅ローン控除を適用した方がお得になる確率が高くなると思います。
住宅ローン控除制度は納税額から控除することができる制度ですので、有効に活用するようにしましょう。
保有が10年を超えると長期譲渡の特例が活用できますが、実質的にあまり活用の機会はないと思います。