不動産投資を行っている方であれば必ず一度は聞いたことがあるであろう積算価格という言葉。
その名の通り、コストを積み上げて計算された不動産の価格なのですが、それ以上に深い部分まで説明された文章はあまりないように見受けられます。
そこで今回は、積算価格を体系的に深く理解していただくために必要な情報をお伝えさせていただきます。
目次
- 1. 積算価格とは?
- 2. 積算価格の計算方法(不動産鑑定評価基準にもとづく)
- 2-1. 土地
- 2-1-1. 公示地価とは?
- 2-1-2. 時点修正とは?
- 2-1-3. 事情補正とは?
- 2-1-4. まとめ
- 2-1-5. その他(既存の土地ではない場合)
- 2-2. 建物
- 2-2-1. 再調達原価とは?
- 2-2-1-1. 直接法
- 2-2-1-2. 間接法
- 2-2-2. 減価修正とは?
- 2-2-2-1. 減価の要因
- 2-2-3. まとめ
- 3. 積算価格の計算方法(不動産投資の慣習にもとづく)
- 3-1. 土地
- 3-2. 建物
- 3-3. 土地の価格と建物の価格を足して積算価格を計算する
- 4. 積算価格と融資の関係
- 5. 最後に
1. 積算価格とは?
まず初めに、積算価格とは何なのか、その定義について確認をしていきましょう。
積算価格について明確に定められている「不動産鑑定評価基準」に基づいた積算価格の定義を見ていきましょう。不動産鑑定評価基準に基づく積算価格の定義は以下の通りです。
価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って求めた不動産の価格を積算価格と言う
あまり聞きなれない言葉が沢山出てきました。実は、この不動産鑑定評価基準にもとづいて求められる積算価格と、一般的に不動産投資の世界において求められる積算価格は異なることが一般的です。
せっかくですので、今回は学術的な観点からの積算価格と、実務の観点からの積算価格、2種類の積算価格の求め方についてお伝えさせていただければと思います。
2. 積算価格の計算方法(不動産鑑定評価基準にもとづく)
まずは、学術的な観点からの積算価格の計算方法についてみていきましょう。
2-1. 土地
まずは土地についてみていきましょう。既存の土地の価格をどうやって計算するか、その手順についてお伝えさせていただきます。
端的な説明方法としては、既存の土地であり、且つ造成工事などに要した費用が分からない場合は、公示地価をもとに、時点修正や事情補正を行うことによって土地の価格を計算します。
ここで少し専門的な用語が出てきましたので、その用語の意味と共に実際に計算をしていきましょう。
2-1-1. 公示地価とは?
まず、公示地価が何なのかという点について説明させていただきます。
公示地価とは、特定の時点における特定の土地の価格を不動産鑑定士が算出したものです。例えば、2016年1月1日時点の銀座1-1の地価は300万円/m2といった形で表現されます。
公示地価は以下のリンクから検索することができますので、調べたい地域がある方は参考にしていただければと思います。
また、公示地価の詳しい説明に関しては実勢地価、公示地価、路線価、3つの土地価格の考え方と計算方法を詳細に解説というコラムを参考にしていただければと思います。
2-1-2. 時点修正とは?
次に時点修正について説明させていただきます。まずは鑑定評価基準上の時点修正の定義についてご紹介させていただきます。
取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正すること
これが時点修正の定義ですが、この文章を分かりやすく説明させていただくと、以下のような意味になります。
公示地価を求めたタイミングと実際に地価を計算するタイミングにおいて、地価に変動がある場合は適切に修正しなければいけない
主要都市の地価の推移を示した以下のグラフをご参照下さい。例えば、このグラフにおける東京の地価の推移において、平成20年の地価を579とすると、平成27年は519となっていることがお分かりいただけるのではないかと思います。
つまり、平成27年の地価の計算する場合、その地点の平成20年のデータがあれば、上記の数字の比率に合わせて調整する必要があるのです。
以下に時点修正のイメージを載せさせていただきますので、参考にしていただければと思います。
2-1-3. 事情補正とは?
次に、事情補正について説明させていただきます。これも時点修正と同様、まずは鑑定評価基準上の事情補正の定義についてご紹介させていただきます。
取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。
これももう少し分かりやすい言葉で説明させていただくと、以下のような意味になります。
土地の取引事例に売り急ぎなどの要因があれば、その要因を考慮して適切に修正しなければいけない
事情補正に関しても以下に簡単にイメージを載せさせていただきますので、参考にしていただければと思います。
2-1-4. まとめ
既存の土地の場合は、実際の取引価格や公示地価にもとづいて、そのデータに色々な補正を行うことによって土地の価格を計算します。
基本的には、過去のデータを積み上げながら、今の土地の価格を導き出すというイメージでとらえていただければと思います。
2-1-5. その他(既存の土地ではない場合)
上記は既に土地として存在している場合ですが、参考まで、元々土地ではなかった場所における土地の価格の計算方法についてお伝えさせていただきます。
元々土地ではなかった場合は、土地にするために発生した費用が土地の積算価格になるとされています。
例えば、森や崖を造成した場合の土地積算価格における積算価格の計算方法は、森や崖を造成した場合の造成費用が土地の積算価格となります。
また、元々が海などであり、土地ではなかった場合は埋め立てに要する費用が土地の積算価格となります。この場合も実務において用いることはまれですので、詳細な計算方法は割愛させていただきます。
2-2. 建物
次に建物についてみていきましょう。建物の積算価格についても、まずは不動産鑑定評価基準に基づく定義からみていきます。
建物の積算価格は、再調達原価を求め、これに減価修正を行うことによって求める
(*本コラムではイメージのしやすさを最優先にして記載しておりますので、厳密な定義とは若干異なります。)
2-2-1. 再調達原価とは?
まずは、再調達原価が何なのかという点についてみていきましょう。これも不動産鑑定評価基準の定義から見ていきます。
不動産を再調達することを想定した場合において必要とされる原価の総額
この言葉であれば、何となくイメージが湧きやすいという方も多いのではないでしょうか?
そして、再調達原価の計算方法は直接法と間接法という2種類があります。ここで、それぞれの場合における建物価格の計算方法についてご紹介させていただきます。
2-2-1-1. 直接法
まずは直接法です。直接法は不動産鑑定評価基準に定義が記載されていますので、まずはその定義をご紹介させていただきます。
直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに 所要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さら に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求める
という記載があります。要は、建物を建築する不動産会社の全ての見積もりを合計して算出するのが直接法です。以下の表に直接法の計算方法のイメージを載せさせていただきました。
項目 | 費用 |
直接工事費(材料等) | 1,000万円 |
間接工事費(仮設物等) | 300万円 |
一般管理費(利益等) | 300万円 |
付帯費用 | 100万円 |
再調達原価 | 1,700万円 |
要は、建物をもう一度一から建てた場合に必要とされる費用の合計が直接法における建物の金額となります。
2-2-1-2. 間接法
次は間接法です。この方法は直接法を使うことができない場合、すなわち、建物の部材の価格などの記録がない場合に使われる手法です。
直接法の場合と同様に、まずはその定義から見ていきましょう。
間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成 又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一 般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細 (種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これら の明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求める方法である
要は、見積もりが存在する類似の不動産から建物の価格を計算するという方法です。以下に簡単なイメージを作成致しましたので参考にしていただければと思います。
2-2-2. 減価修正とは?
建物の再調達原価の計算方法を見てきました。次に、減価修正の方法について見ていきましょう。
まずは減価修正の定義について紹介させていただきます。
原価修正とは、減価の要因に基づき発生した対象不動産の減価額である
この定義を更に深く理解するためには、減価の要因が何なのかという点について考える必要がありますので、次の章で減価の要因について説明させていただきます。
また、減価修正のイメージを簡単に図にさせていただきましたので、参考にしていただければと思います。
2-2-2-1. 減価の要因とは?
ここから減価の要因について見ていきましょう。端的な説明としては、直接的及び間接的に不動産の価値を下げるもののことを減価の要因と言います
不動産鑑定評価基準にもとづくと、減価の要因は3種類あります。それぞれについて簡単にみていきましょう。
①物理的要因
物理的要因とは、その名の通り、物理的な損傷等を示します。建物が傷だらけな場合などが物理的な要因ですね。
以下にイメージを載せさせていただきますので、参考にしていただければと思います。
②機能的要因
機能的要因とは、設備の容量不足や、設備自体の陳腐化など、建物自体がその能力を十分に発揮できていない要因のことを言います。
以下にイメージを載せさせていただきますので、参考にしていただければと思います。
③経済的要因
経済的要因とは、周辺の地域と比較した上で対象となる不動産の競争力が低い場合において、その減少を引き起こしている要因のことを言います。
これだと少しイメージがわきづらいと思いますので、以下の図を参考にしていただければと思います。
同じビルであっても、それが田舎にある場合と都心にある場合では、その価値が異なるというのが不動産鑑定評価基準に基づく考え方なのです。
2-2-3. まとめ
建物の積算価格は、その建物を再度建築した時の価格から減価の要因を引いて求めます。減価の要因の計算方法などは難しい部分がありますが、この考え方自体はイメージしやすいのではないでしょうか。
3. 積算価格の計算方法(不動産投資の慣習に基づく)
次に、不動産投資の慣習にもとづいた積算価格の計算方法について見ていきましょう。
まず初めに認識しておいたいただきたいことが一つあります。それは、積算価格は、銀行が融資を行う上での評価に用いられるということです。
つまり。日本に多数ある支店間で同じ基準で評価を行う必要があるため、客観的で分かりやすい数字が用いられるということを頭の片隅において頂ければと思います。
計算にあたっては、以下の不動産を想定します。必要な情報は青色で塗らせていただいております。
3-1. 土地
まずは土地の積算価格を計算していきましょう。土地の積算価格は以下の式で計算することができます。
土地の積算価格 = 路線価 x 土地面積
路線価とは、固定資産税の計算をするために使われているもので、対象となる道路に面している土地の1m2あたりの価格を示しています。
なぜ路線価を用いるのかというと、客観的で分かりやすいからです。
早速計算方法にうつっていきましょう。土地の面積は検索結果画面に記載されています。この物件の場合、土地の面積は496.6m2です。
次に、路線価を調べましょう。路線価は基本的にポータルサイトに記載されていませんので、自分で探す必要があります。
まずは路線価を掲載しているサイトにいきましょう。「路線価」で検索をかけると、国税庁のHPがでてきますので、路線価図という部分をクリックしましょう。
そうすると、以下の画面が出てきますので、「最新年分」の欄をクリックしましょう。
すると、以下の画面がでてきます。今回検討する物件は新潟県にありますので、「新潟県」をクリックしましょう。
次に、「路線価図」をクリックします。
すると、新潟県内の市街化区域の一覧がでてきます。なぜ市街化区域だけが掲載されるのかというと、路線価が設定されるのは基本的に市街化区域だけだからです。
今回は新潟県「秋葉区」の物件ですので、「秋葉区」をクリックします。
すると、秋葉区内の地名が表示されます。今回検討する物件の住所は荻島3丁目ですので、荻島3の右にある数字をクリックします。
なお、複数の数字が掲載されている欄もありますが、ここでは数字を気にする必要はありません。どの数字でも構いませんのでクリックしましょう。
番号をクリックして出てきた路線価図とGoogle mapを照らし合わせ、対象物件の路線価を確定させましょう。
Google mapを使う理由は、路線価図だけでは対象物件の場所を特定しづらいからです。つまり、路線価図から対象不動産を特定することができるのであれば、Google mapを併用する必要はありません。
今回は地図の右側にある中学校が目印となり、対象物件の路線価を見つけることができました。上の図から、対象不動産の路線価は37,000円(1m2あたり)となります。
路線価を調べ終えたら、物件に掲載されている土地の面積に路線価を乗じ、土地の積算価格を算出しましょう。上述の通り、この物件の土地面積は496.6m2ですから、土地の積算価格は以下となります。
土地の積算価格 = 496.6m2 x 37,000円 = 1,837万円
より、対象不動産の土地の積算価格は1,837万円ということが分かりました。
3-2. 建物
次に、建物の積算価格を計算してみましょう。
建物の価格は構造別の法定耐用年数から築年数を引いた割合に再調達原価をかけることによって計算することができます。
法定耐用年数を用いる理由は、それが客観的であり分かりやすいからです。
構造別の法定耐用年数と再調達原価を以下にまとめさせていただきましたので参照いただければと思います。
構造 | 法定耐用年数 | 再調達価格(/m2) |
木造 | 22年 | 14万円 |
軽量鉄骨 | 27年 | 16万円 |
重量鉄骨 | 34年 | 19万円 |
RC | 47年 | 24万円 |
今回検討する物件は以下の通り築9年、構造はRCですので、この2つの情報をもとに建物の積算価格を計算しましょう。
建物の積算価格 = 38 / 47 x 330.24m2 x 24万円 = 6,400万円
より、建物の積算価格は6,400万円であることが分かりました。
3-3. 土地の価格と建物の価格を足して積算価格を計算する
土地と建物の価格が分かれば、この2つを足すことによって積算価格を計算することができます。
この不動産の場合は、1,837万円+6,400万円=8,237万円にて、積算価格は8,237万円になるということが分かりました。
積算価格は不動産への融資評価と密接に関係しており、どの銀行でも画一的な基準を設ける必要があるということから、このような客観的で分かりやすい指標が用いられているのです。
4. 積算価格と融資の関係
上述の通り、積算価格と融資には密接な関係があります。
積算価格と融資との関係についてしっかりと理解を深めたい方は、不動産投資における積算価格の本質というコラムを参考にしていただければと思います。
このコラムでは、銀行において積算価格が何を意味しているのか、その背景含め詳細にまとめさせていただいています。
5. 最後に
積算価格の意味と計算方法について説明させていただきました。不動産鑑定評価基準にもとづく積算価格の計算は、不動産投資を行う上では必要ではありませんが、積算価格の深い理解のために参考にしていただければと思います。
また、積算価格は定量的且つ客観的に計算することから、銀行の融資と密接な関係があります。積算価格をうまく活用し、不動産投資を加速させましょう。