日本の相続税の税率は世界的に見ても非常に高いのが特徴です。
最高で55%の税金がとられてしまいますから、相続対策はしっかりと行っておきたいもの。
しかし、相続を行うにしても何から行えばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、相続税に関する知っておきたい知識についてお伝えさせていただきます。
- 目次
- 1. 相続とは?
- 1-1. 相続人と被相続人
- 2. 相続の対象(相続人)になる人は?
- 2-1. 配偶者
- 2-2. 子供
- 2-3. 父母
- 2-4. 兄弟
- 3. 相続税とは?
- 3-1. 財産って何?
- 4. 財産の計算方法は?
- 4-1. 上場株式
- 4-2. 相場のない株式
- 4-2-1. 会社の区分
- 4-2-2. それぞれの場合の評価
- 4-3. 外貨の評価
- 4-4. 公債や社債の評価
- 4-5. その他不動産関連商品の評価
- 5. 相続税の計算方法は?
- 5-1. 税金のかからない範囲
- 5-2. 相続税率は?
- 6. 納税のタイミングは?
- 6-1. 期限内に納付することができなかった場合は?
- 6-1-1. 利息部分(延滞税)
- 6-1-2. 罰金部分(加算税)
- 7. その他知っておいた方が良いこと
- 7-1. 海外にいる場合は?
- 7-2. 期限内に相続人の話し合いがまとまらなかった場合は?
- 8. 相続対策として知っておきたい内容
- 9. 最後に
1. 相続とは?
相続税について学んでいく前に、まずは相続とは何なのかということについて整理していきましょう。
相続は民法がその考え方のベースとなっています。そして、相続が何かということを理解するには民法896条を確認すると良いですので、早速民法896条を確認してみましょう。
相続により相続人は原則として被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
という記載があります。
つまり、相続とは、権利義務を受け継ぐということです。
1-1. 相続人と被相続人
上記で相続人と被相続人という言葉がでてきましたが、相続人と被相続人がどういった人なのかという点について見ていきましょう。
これも民法の文言から見ていきましょう。
相続される財産、権利、法律関係の旧主体を被相続人といい、被相続人の財産上の地位を承継する者のことを相続人という。
ちょっと言葉が難しくてわかりづらいですので、上記の図を使って相続人と被相続人の整理を行っていきましょう。
つまり、死亡した方が被相続人で、財産を受け継ぐのが相続人です。
2. 相続の対象(相続人)になる人は?
次に、具体的に家族の中で誰が相続人になるのかという点について見ていきましょう。
2-1. 配偶者
まず、配偶者は常に相続人となるという点を意識しておきましょう。
2-2. 子供
子供がいる場合は、配偶者と子供が相続人となります。
この場合、相続割合は配偶者:子供=1:1となります。
(子供が複数いる場合は1/2を子供の数で分けあう形となります。)
2-3. 父母
子供がおらず、父母がいる場合は、配偶者と父母が相続人となります。
この場合、相続割合は配偶者:親=2:1となります。
(両親がいる場合は、1/3を半分ずつ分ける形となります。)
2-4. 兄弟
子供も父母もおらず、兄弟がいる場合は、配偶者と兄弟が相続人となります。
この場合、相続割合は配偶者:兄弟姉妹=3:1となります。
(兄弟姉妹が複数人いる場合は、1/4を兄弟姉妹の人数で分ける形となります。)
3. 相続税とは?
ここまで、相続が何かということについて簡単に整理させていただきました。
ここから相続税とは何なのかという点についてみていきましょう。相続税とは税金ですので、その法律を定めるのが民法から税法に移ります。
ここで、相続税法上の相続税の納付に関する文言を見ていきましょう。実際の相続税法の文言は長いですので、その中から一部を抜粋の上、ご紹介させていただきます。
相続または遺贈により財産を取得した個人は相続税を納める必要がある
上記の文章のポイントは財産を取得という点ですね。
民法では、財産・権利・法律関係についても相続人は承継するという言葉がありましたが、この中で相続税の対象となるのは財産だけなのです。
3-1. 財産って何?
そう考えると、財産とは何かと考える方もいらっしゃるのではないかと思います。税制上、財産という言葉の定義はなく、個別の項目についてその評価額の計算方法が示されているだけでしたので、一般的な財産の解釈と同じと考えていただければ良いのではないかと思います。
一般的な財産の言葉の意味についてご紹介させていただきます。
個人・家・団体などが所有する、金銭や土地・建物・家具・商品など経済的価値がある物の総体
基本的には、金銭的な価値があるものは全て財産となります。
4. 財産の計算方法は?
次に、相続財産の価値を具体的にどうやって計算していくのかという点についてみていきましょう。
大きく分けると、不動産関連の財産とそれ以外の財産に分けることができます。不動産以外の財産の種類はとても多いですので、ここではまず「不動産以外の財産」の評価方法についてお伝えさせていただきます。
4-1. 上場株式の評価
まずは上場している株式の評価についてみていきましょう。
ここからは、「課税時期」という言葉が出てきますが、「課税時期」というのは被相続人が死亡した日ですので、頭の片隅においておくとよいでしょう。
今回は、5月15日を課税時期と仮定します。上場している株式の場合は、以下の4つのパターンの中で最も低い価額を適用するものとされています。
①課税時期の最終価格
②課税時期の月の毎日の最終価格の平均額
③課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額
④課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額
つまり、1か月前や2か月前に株価が急上昇した銘柄があれば、その銘柄を購入することによって評価額を下げることが可能ですので、相続税対策として有効な手法の一つと言うことができるでしょう。
4-2. 相場のない株式の評価
相場のない株式、すなわち、上場していない会社の株式の場合は、大会社・中会社・小会社のいずれかに区分して評価をすることとされています。
それぞれの会社の定義とともに、どうやって評価をしていくのかという点について簡単にお伝えさせていただきます。
4-2-1. 会社の区分
まずは、大会社・中会社・小会社の定義について簡単に説明させていただきます。
厳密には業種によって会社の区分が異なってくるのですが、今回は小売・サービス業の場合における会社区分についてご紹介させていただきます。
A 総資産価額 | B 従業員数 | C 前期1年の取引金額 | |
大会社 | 20億円以上 | 51人以上 | 80億円以上 |
中会社 | 7,000万円以上 | 6人以上 | 2億円以上 |
小会社 | 7,000万円未満 | 5人以下 | 2億円未満 |
上記の表において、AまたはB、且つCに当てはまる場合、該当する会社に区分されます。
4-2-2. それぞれの場合の評価
ここからそれぞれの会社の区分に応じた財産評価方法について説明させていただきます。なお、中会社の場合は大会社と小会社の双方を適用する形になりますので、今回は大会社及び小会社の場合にしぼって説明させていただきます。
①大会社
まずは大会社の場合です。大会社の場合、類似業種比準価額という評価方法で株価の計算をします。
簡単なイメージで説明させていただきます。
類似する企業に70%の掛け目をかけ、その金額に1株あたりの当該企業の配当・利益・純資産の割合による調整を加えて評価額を計算するという形です。
また、調整に関しては利益に対する比重が大きいことから、利益が小さい会社の場合、評価額を小さくできる可能性があると頭に入れておくと良いでしょう。
詳細については、国税庁HP内、財産評価、類似業種比準価額というページを参考にしていただければと思います。
②小会社
次に小会社の場合について見ていきましょう。小会社の場合、純資産価額方式によって財産の金額を評価します。
純資産価額方式のイメージについて図で説明させていただきます。
貸借対照表にもとづく資産と負債と相続税評価にもとづいて再評価し、再評価した含み益または含み損の金額に対応する税金を控除することによって株価を算出するというやり方です。
詳細については、国税庁の財産評価、株式及び出資というページを参考にしていただければと思います。
4-3. 外貨の評価
次に、外貨の場合の評価方法についてみていきましょう。
外貨の場合は、課税時期における取引銀行が発表したレートに基づいて評価されます。
画一的な評価方法ですので、節税対策を行うことが難しいということができるでしょう。
4-4. 公債や社債の評価
公債や社債は基本的にマーケットの値段で評価されると考えておきましょう。
すなわち、外貨の場合と同様、節税対策を行うことが難しい財産と考えることができます。
詳細については、国税庁の利付公社債・割引発行の公社債の評価というページを参考にしていただければと思います。
4-5. その他不動産関連商品の評価
とりわけ不動産関連資産はかなり多くの種類があり、その活用方法次第では大きく節税することができますが、種類が非常に多いということから、具体的な計算方法については別途背景とともコラムにまとめさせていただきます。
5. 相続税の計算方法は?
次に、上記4.にて計算した財産の金額に際し、具体的にどれだけの税金を納めなければいけないのかという点(税額の計算方法)について見ていきましょう。
5-1. 税金のかからない範囲
まずは相続税の控除額について説明させていただきます。控除額は3,000万円+600万円x法定相続人の数です。以下簡単に図で説明させていただきます。
相続人が多ければ多いほど、控除額も大きくなります。
5-2. 相続税率は?
次に、相続税の税率についてお伝えさせていただきます。相続税は、所得税と同じく累進課税の形になっています。つまり、相続税の評価額の大きさによって税率が変わってくるのです。
それぞれの評価額に応じた税率についてまとめさせていただきましたので、参考にしていただければと思います。
法定相続分による取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
取得金額に応じた納税額(3億円まで)をグラフにまとめさせていただきましたので、参考にしていただければと思います。
財産の価格が大きくなるにつれて、税額も大きくなることがお分かりいただけるのではないかと思います。
6. 納税のタイミングは?
次に、相続税を払わなければいけないタイミングについてお伝えさせていただきます。
相続税を納付するタイミングは、相続人の死亡を知った日から10か月以内と規定されています。
死亡を知った日から10か月以内という言葉を見ると、「死亡の事実を知らなかったら大丈夫」と考える方もいらっしゃると思いますが、実際には死亡した日から10か月以内に払うのが基本であり、「死亡の事実を知らなかったから納税のタイミングが伸びることはほとんどない」と考えていただければと思います。
実際の納税のタイミングについて図で説明させていただきますので、参考にしていただければと思います。
6-1. 期限内に納税することができなかった場合は?
期限内に納税することができない場合、追加の税金が発生します。
イメージとしては、納付が遅れたことによる「利息」と、法定期限内に納付しなかったことに対する「罰金」が課されます。
これらのペナルティは、相続税に限らず、他の税金においても同様であることも合わせて認識しておくと良いでしょう。それぞれのペナルティの内容と追加納付額について簡単にまとめましたので、参考にしていただければと思います。
6-1-1. 利息部分(延滞税)
納付が遅れた場合に発生する税金のことを「延滞税」呼びます。延滞税の概要及び税率は以下の通りです。
種類 | 内容 | 税率 |
延滞税 | 税金の納付が遅れた場合 | ①日銀が定める基準割引率+4%と、②年14.6%(2か月以内年7.3%)の内低い方 |
6-1-2. 罰金部分(加算税)
次に罰金部分について見ていきましょう。法律に基づいて納めなければいけない金額を納めなかった場合に払わなければいけない税金のことを加算税と言います。そして、加算税は3つの種類がありますので、それぞれの内容についてご紹介させていただきます。
種類 | 内容 | 税率 |
過少申告加算税 | ①うっかり税額を少なく申告してしまい、自ら修正した場合 | 0% |
②うっかり税額を少なく申告してしまい、国税調査官の指摘を受けた場合 | 50万円以下10%、50万円以上部分15% | |
無申告加算税 | ①申告書を提出し忘れて、自主的に提出した場合 | 5% |
②申告書を提出し忘れて、国税調査官の指摘を受けた場合 | 50万円以下15%、50万円以上部分20% | |
重加算税 | ①申告書を提出したが、意図的に申告書の内容を偽った場合 | 35% |
②申告書を提出ておらず、且つその内容を偽っている場合 | 税額全体の40% |
7. その他知っておいたほうが良いこと
ここでは、相続税の計算において知っておいたほうが良い知識についてご紹介させていただきます。知っていると得をする可能性がある内容ですので、是非とも参考にしてみて下さい。
7-1. 海外にいる場合は?
まずは相続人や被相続人が海外にいる場合などにおいて相続税がどうなるのかという点についてお伝えさせていただきます。
基本的な考え方としては、ほとんどの場合において相続税の対象となってしまうというのが今の相続税法上の整理となります。
相続税の課税対象から外すことができる場合は、①相続人が海外に5年以上居住していること、②被相続人が海外に5年以上居住していること、③相続財産が日本にないこと。
この3つの条件を満たさなければいけません。日本を離れて余生を過ごすという意味で、とても難しい選択肢と言えるでしょう。
7-2. 期限内に相続人の話し合いがまとまらなかった場合は?
次は、申告期限内に話し合いがまとまらなかった場合です。被相続人が保有している財産が不動産などの場合、それを売却するべきか、それとも誰かが保有するのかといった形でもめることもあるのではないでしょうか。
そういった場合に用意されているのが、延納という制度です。
延納とは、金銭で相続税を払うことが困難な場合に、年賦で相続税を払うことができる制度のことです。結局は追加の費用が発生してしまいますので期限内に納付することができるのが一番良いのですが、場合によってはうまく活用すると良いのではないでしょうか。
延納制度の詳細は別途コラムに載せさせていただいておりますので、参考にしていただければと思います。
8. 相続対策として知っておきたい内容
相続対策として知っておきたい内容を具体的に整理しておりますので、具体的にどういった対策があるのかという点については、相続対策で絶対に知っておくべき施策8つというコラムを参考にしていただければと思います。
9. 最後に
相続対策として知っておいた方が良いことについてお伝えさせていただきました。
今回のコラムで基本をおさえつつ、具体的な相続対策を行っていきましょう。