抵当権という言葉を聞くことは多いと思いますが、抵当権は何なのか?という問いにいざ答えるとなると、言葉に詰まってしまう方も多いのではないでしょうか。
「住宅ローンを組む際に出てくる言葉」、「競売の際に使われる言葉」、といったざっくりとしたイメージをお持ちの方に、もう少し掘り下げた理解をして頂くために、今回のコラムを記載させて頂きました。
- 目次
- 1. 抵当権を一言で言うと?
- 2. 「担保」とは?
- 3. 「物権」とは?
- 4. 「占有」とは?
- 5. 「非占有」とは?
- 6. 非占有担保物権を整理する
- 6-1. 抵当権は担保権である
- 6-2. 抵当権は非占有物権である
- 7. まとめ
1. 抵当権を一言で言うと?
まず、抵当権は民法上、非占有担保物権と言われています。 つまり、抵当権をしっかりと理解するためには、この非占有担保物権についてしっかりと理解する必要があります。
この非占有担保物権という言葉は、「非」、「占有」、「担保」、「物権」という4つの意味を持つ言葉の集合として成立していますので、それぞれの言葉の意味をしっかりと理解することが抵当権の深い理解につながります。
そこで、本日のコラムでは上記の4つの言葉の民法上の意味について一つずつ解説させて頂きます。 なお、このコラムは分かりやすさを最優先に記載させて頂いておりますので、民法上の解釈とはわずかに意味合いが異なる部分もあること、ご了承下さい。
2. 「担保」とは?
上記の「非 占有 担保 物権」では非が一番先頭に来ますが、まず担保について整理した方が理解しやすいと思いますので、まずは「担保」という言葉の意味について説明させて頂きます。
担保という言葉、一度は聞いたことがあると思います。いわゆる「人質」や、「物質(実際にこのような言葉はないですが)」のことです。
民法における担保の意味合いも、みなさんが思われている「人質」や「物質」と同じです。
借金の担保として、契約の担保として、といった形で使われますね。 そして、「人質」や「物質」として設定されるのが抵当権ですので、その対象となる何らかの義務(民法で言う「債務」ですね)が存在する必要があります。
例えば、誰かからお金を借りた際、お金を貸す側が担保として借手の持っている時計(「物質ですね」)を預かる。部屋を借りる際、家主が家賃送金の担保として、連帯保証人の差し入れ(「人質ですね」)を求める。といった具合です。
つまり、担保権を設定するということは、その担保権とセットになる何らかの義務が発生しているのです。
当たり前のようですが、この点を意識しないと担保権が単独の権利のように見えてしまいますので、注意しましょう。
上記の図の例においては、質屋に担保として指輪を質入れしており、これに対してお金を借りているのですから、この担保権には質屋から借りたお金を返す返済義務がセットになっています。
そして、住宅ローンの場合は、家と土地を銀行に担保として差し入れますね。「私が借金を返せなくなったら、この家と土地はどうぞご自由に処分して下さい。」というイメージ、これが担保権です。
3. 「物権」とは?
物権を理解するためには、債権とセットで学ぶことが必要不可欠です。
物権と債権の違いに関しては、物権と債権の違いを具体例と共に2分で理解し、地上権を学ぶというコラムに記載しておりますので、参考にして頂ければと思います。
抵当権は物権ですから、銀行は担保として差し入れられている土地と建物を円満に支配することが出来ます。
4. 「占有」とは?
占有とは事実上そのモノを持っていることであり、事実上そのモノを持っている人には「占有権」という権利が与えられます。
では、上記の物権である所有権とどう区別されているのでしょうか?これも具体例で考えてみましょう。
あなたはドライブをするためにレンタカー屋で車をレンタルしたとします。この時、レンタルした車の所有権はレンタカー屋が持ったままですが、レンタカー屋はあなたがレンタル料を払う限りにおいては、自由にその車を使う権利を与えられます。
そして、レンタカーに乗ってドライブをしているあなたには、物理的にその車に乗っている限りにおいて、占有権という権利がついてきます(上述の通り、事実上そのモノを持っているからです)。 ここで、なぜ占有権が必要なのかを考えてみましょう。
例えば、あなたがコンビニに車を泊めている最中に、誰か(盗人Aとしましょう。)があなたの車に勝手に乗り込んできたとします(あなたは車に乗っています)。
そうすると、あなたは所有権を持っているわけではないので、盗人Aに対し、所有権に基づいて「車から降りろ!」ということができません(レンタカー屋は所有権に基づいて盗人Aを車から降りさせる権利を有しています)。
それではあなたは困ってしまいますね。そこで民法上与えられたのが、占有権という権利です。
占有権は、モノを持っている人に対し、その円満な支配状態を維持することが出来るようにするために与えられた権利というイメージで理解して頂ければと思います。
5. 「非占有」とは?
非はそのままの意味ですので、非占有とは、そのモノを事実上支配していないということです。
銀行が抵当権を設定したとしても、銀行員が土地や建物に住んでいる訳ではないですので、占有はしていないですね。
6. 非占有担保物権を整理する
上記を踏まえ、改めて抵当権が非占有担保物権であるということについて考えてみましょう。
上記は4つの言葉の組み合わせということをお伝えさせて頂きましたが、4つの言葉の意味を理解した上では、抵当権は「担保権」であり、「非占有物権」であるという2つのカテゴリーに分けると分かりやすいので、この2つに分けて説明させて頂きます。
6-1. 抵当権は担保権である
まず、抵当権というのは担保権です。すなわち、担保として提供される土地や建物に対応する住宅ローンが存在しており、この住宅ローンの返済が滞った場合の「物質」として担保権が設定されています。
ここは上記の担保権の説明と同じですので、理解しやすいのではないかと思います。
6-2. 担保権は非占有物権である
抵当権の一番大きな特徴は、非占有物権であるということです。
すなわち、抵当権は物権であり、誰に対しても主張することが出来る一方で、銀行はその土地や建物を支配していないという一見相反する特徴を有している点が抵当権の大きな特徴なのです。
非占有物権という点について、具体例で考えてみましょう。
例えば、抵当権が設定された土地に第三者(悪人Aとしましょう)が現れ、突然建物に居座り始めたとします。
そうすると、建物の所有者は、所有権及び占有権に基づいて悪人Aに対し、「建物から出ていけ!」ということができます。
では、この時、銀行は何ができるでしょうか? 実は、銀行も抵当権に基づいて、悪人Aに対し「建物から出ていけ!」ということができるのです(ただし、この場合は悪人Aが建物を破壊するなど、担保価値を下落させていることが条件です)。
なぜなら、抵当権は物権であり、その円満な支配状態を維持するために誰に対しても主張することができるからです。
すなわち、物理的に占有をしていないにも関わらず、その土地及び建物を支配することができてしまうような強力な権利が抵当権なのです。
あなたが所有権を持っていたとしても、あなたがその建物を意図的に壊して担保価値を減少させた場合、銀行は抵当権に基づいてあなたを追い出すことが出来てしまうのです。
7. まとめ
抵当権は担保権であり、非占有物権。 占有していないにも関わらず、円満な支配状態を維持することができる大変強力な権利です。
住宅ローンを組成する際、抵当権は必ず設定されると思いますが、上述のように非常に強力な権利であり、あなたの土地や建物が不法占拠された場合には金融期間の抵当権の効力も活用することができるということを頭の片隅に置いておきましょう。