不動産投資の勉強を進めると、一度はデッドクロスという言葉を耳にするのではないかと思います。
不動産投資の本には、デッドクロスにそなえて現金を貯めておかなければいけないと言われますが、一体どれだけ貯めておけば良いのかという具体的な数字を紹介した情報は少ないと思います。
そこで、今回はデッドクロスとは何なのか?デッドクロスがどれほど恐ろしいのか?デッドクロスを避けることは可能なのか?といった点についてご紹介させていただこうと思います。
目次
- 1. デッドクロスとは?
- 2. デッドクロスはなぜ発生するのか?
- 2-1. デッドクロスが発生してしまう理由
- 3. デッドクロスはいつ発生するのか?
- 3-1. 木造の場合
- 3-2. 軽量鉄骨の場合
- 3-3. RCの場合
- 4. デッドクロスをさける方法
- 4-1. 利回りを上げ、デッドクロスを避けることができるか検証
- 4-2. デッドクロスを避けることができる利回りを構造別に整理
- 5. 最後に
1. デッドクロスとは?
まず、デッドクロスの言葉の意味について勉強しましょう。
デッドクロスはデッドとクロスをかけあわせてできた言葉です。デッドはDebt(デット/借金)ではありませんので注意しましょう。デッドクロスという言葉の発祥は株式投資のようであり、これから株価が下がるというサインとしてデッドクロスという言葉が使われるようです。
以下株式投資の場合におけるデッドクロスのイメージを載せさせていただきます。株価の中期の動きを短期の動きが下回った時をデッドクロスと言います。
一方、不動産投資においてデッドクロスという言葉はしっかりと定義されていないようです。英語のサイトを調べても、Debt Crossについて定義しているサイトは見つかりませんでした。
不動産投資におけるデッドクロスは収入が変わらずとも、単年度の収支が黒字から赤字に転じてしまうタイミングのことと言われていますので、今回のコラムもこの前提をベースに話を進めていこうと思います。
2. デッドクロスはなぜ発生するのか?
賃貸経営をしていく中でデッドクロスはなぜ発生してしまうのでしょうか?その背景を理解していきましょう。
この現象を理解するためには、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の3つの関連性をしっかりと理解する必要がありますが、今回は会計のことが詳しく分からない方向けに簡単に説明させて頂きます。貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の考え方を理解している方はこの章は飛ばしていただいて構いません。
まず、3つの財務諸表の理解に先立ち、減価償却という言葉の意味もしっかりと理解しておく必要があります。
減価償却の意味については、減価償却ってそもそも何なのか?減価償却の考え方を詳細に解説というコラムをご参照いただければと思います。
また、
2-1. デッドクロスが発生してしまう理由
上記を踏まえ、デッドクロスが発生してしまう理由について整理します。端的には、償却費と金利の計上時期による金額の違いがデッドクロスを発生させてしまう原因です。
すなわち、減価償却で計上できる金額は法律で定められているため、 減価償却の方法によっては早期に経費化が終わってしまい、その後は経費額が減ってしまい、結果として大きな利益が出てしまうということがデッドクロスが派生してしまう理由なのです。
3. デッドクロスはいつ発生するのか?
では、デッドクロスがいつ発生するかという点について考えてみましょう。 以下の条件で不動産を購入したとします。
利回り | 借入期間 | 金利 | 償却年数 | |
木造 | 12% | 15年 | 2.5% | 7年 |
重量鉄骨 | 10% | 20年 | 2.5% | 13年 |
RC | 8% | 25年 | 2.5% | 20年 |
上記以外の条件は以下の通りです。
建物割合(物件価格のうち減価償却させる割合)は50% 賃貸運営の諸経費25% フルローンを組成それぞれの結果を見てみましょう。
念のため、計算に使ったエクセルシートを添付させていただきますので、検証に活用したい方は使っていただければと思います。
3-1. 木造の場合
上記前提における損益計算書の動きをまずみていきましょう。
減価償却費を計上できる1~7年目までは会計上は大きな損となっていることがお分かりいただけると思います。
次に、キャッシュの動きを見ていきます。
減価償却が終わった8年目から赤字になっている(手残りがマイナス)ということがお分かりいただけるのではないかと思います。
これは、8年目からは減価償却費を計上することができないので、多くの利益が出てしまい、多額の税金を払わなければいけないからです。
他方、ローンの返済が終わった16年目からは大きな利益が出ていることがお分かりいただけるのではないかと思います。ローンの返済が終わり、金利と元本の支払いが無くなったからです。
3-2. 重量鉄骨の場合
木造と同様、損益計算書の動きから見ていきましょう。
償却費を計上することができる13年目までは利益が小さいことがお分かりいただけるのではないかと思います。
次に、キャッシュの動きを見ていきましょう。
木造の場合と同様、減価償却が終わったタイミングで現金がマイナスになっていることがお分かりいただけるのではないかと思います。
こちらも減価償却が終わった14年目からデッドクロスが発生しています。
3-3. RCの場合
最後にRCの場合について見ていきましょう。まずは損益計算書です。
減価償却費を計上することができる20年目まではある利益をおさえることができていますが、21年目からはほとんど経費が出ておらず、大きな利益が出てしまっていることがお分かりいただけるのではないかと思います。
つぎにキャッシュの動きを見ていきましょう。
利回りの設定が低かったのか、減価償却が発生する前からすでに単年のキャッシュがマイナスになってしまっています。 デッドクロス発生以前の問題ですね。
また、減価償却が終わった21年目からは赤字幅が拡大していることが分かります。
上記の図からお分かりいただける通り、減価償却が終わった次の年から、 デッドクロスのリスクが顕在化するということがお分かり頂けると思います。
4. デッドクロスを避ける方法
では、デッドクロスを避けることは出来ないのでしょうか? さきほどと同じ前提条件で考えてみましょう。
先程の例では、木造12%、重量鉄骨10%、RC8%という利回りで計算させていただいてましたが、この利回りを変化させ、デッドクロスを避けることができるのか考えてみようと思います。
4-1. 利回りを上げ、デッドクロスを避けることができるか検証
まずは極端な例ですが、RCの利回りが15%だったと仮定します。その場合における損益計算書とキャッシュフロー計算書の動きを見ていきましょう。
まずは損益計算書から見ていきます。
減価償却費を計上している間にも大きな利益が出ており、償却が終わった期間も大きな利益が出ていることがお分かりいただけるのではないかと思います。
次に、キャッシュの動きについて見ていきましょう。
ポイントは減価償却費の計上が終わる21年目ですが、21年目でもキャッシュフローがマイナスになる気配はまったくないことがお分かりいただけるのではないかと思います。
つまり、デッドクロスは利回りが高い物件を購入することによって避けることが可能なのです。
4-2. デッドクロスを避けることができる利回りを構造別に整理する
それでは、上記の例において、構造別にデッドクロスを避けることができる利回りについて見ていきましょう。 計算の結果、以下の利回りであればデッドクロスを避けることができることが分かりました。
木造 | 15.3% |
重量鉄骨 | 12.1% |
RC | 10.2% |
参考まで、木造の場合の損益計算書とキャッシュフロー計算書の動きを以下ご紹介させていただきます。
まずは損益計算書です。
損益計算書は償却が終わったタイミングで大きな利益が出てしまっているのがお分かりいただけるのではないかと思います。
次にキャッシュフロー計算書です。
償却が終わったタイミングで大きな利益が出てしまうため、納税額が大きくなり、手残りキャッシュは少なくなりますが、何とか毎年プラスで回っていることがお分かりいただけると思います。
更に、ローンの返済が終わった16年目からは大きなキャッシュのプラスが生じていることがお分かりいただけるのではないかと思います。
5. 最後に
デッドクロスは確かに意識する必要がありますが、結局は高利回りの物件を購入することで対処が可能です。
つまり、物件購入時はデッドクロスを気にするのではなく、高利回りの物件や高値で売却できる物件を探すよう意識した方が良いと言えるでしょう。